ドラッガーの言葉から看護の未来へ!
◇餅田 敬司(京都橘大学 看護学部)

世界中で新型コロナウィルスの感染拡大が止まらず、誰もが不安を感じながら、これからの世の中がどうなっていくのかと思いめぐらせていることと存じます。このような状況の中、皆さんに気の利いたことを申し上げることはできませんが、ピーター・ドラッカーは、「未来のことは誰もわからない」し、「未来は、今日と異なることは間違いない」と述べています。同時に「未来は創ることができる」し、「既に起こったことの結果を予測することはできる」とも述べています。
 自分自身の意志で、未来を切り開いていくことは、誰でもそれなりにやっているし、既に起きていることから起こり得る結果をある程度見通すことはできます。「未来はわからない」「未来は現在とは違う」というドラッカーの言葉から、未来は今とは違う変化の果てにあり、予測不能であることを我々は学ぶのだと思います。そして、未来について明らかなのは、今とは違う状況が訪れるということ、ただそれだけです。

すでに起こってしまったことから未来を探す
 未来に備えるためには、すでに起こっている状況とその帰結を正しく認識しておかなければならないが、すでに起こった未来は、体系的に見つけることができます。つまり、1.人口構造、2.知識、3.他の産業・他の国・他の市場、4.産業構造、5.企業の内部人口構造、この5つの領域の変化を調べることであるとドラッカーは述べています。
 例えば、人口構造については、「人口の変化は、労働力、市場、社会、経済にとって最も基本となる動きです。すでに起こった人口の変化が大きく変化を起こすとは少ない。戦争や大きな自然災害が起こらない限り急激に変化はしない。しかし、20年後の労働力人口は、かなり確実に予測することができる」と述べています。
 どの領域にも「起こってしまった未来」は必ずあり、誰もが確認できる変化、出来事をしっかり観察していくことでしか、新たな未来は創造できないとも述べています。「すでに起こった未来を探す」とは、今起きていることから未来に対して何をすべきか考えることであり、それが希望につながるのではないかと私は考えています。コロナ禍でありながらも過去の歴史、立ち向かった人類の叡智をいち早く見定め、次の機会に活用していくことこそが「未来を探す」ことにつながると考えます。
 ナイチンゲールは、看護で最も大切なことは「観察する」ことと述べています。未来は誰にもわからないが、私達の回りには多くの「すでに起こってしまった未来」がある。今後、巨大なパラダイムシフトが起きてくることを見つけていくこと、すなわち、実践されている看護管理の中で、経時的に何が起きたのかを記録し、人類の英知として蓄積することが、「未来を探す」ことにつながるのではないでしょうか。

これからを変えていくのは……
 ドラッカーは、コロナ感染拡大を予測していたのではないが、未知なるものが社会を変えると述べています。それは、戦争や自然災害ではなく、身近になった情報であるとも言っています。また、著書『ネクスト・ソサエティ』の中で、「医療の8割は専門看護師で処置できる。処置できないものを医師に回せばよい」と。これからの医療は、へき地であっても地方の小さな病院であってもITやIOTを活用して、あらゆる患者を診ることができるようになるようです。そして、さまざまな情報や取り組みの成果をデータ化したうえで、多くの病院が共有、AIで解析し、人類が抱える問題の解決に向かうヒントを見い出すような未来予想図が描かれようとしています。そんな未来に向け、情報共有医療・共同看護へと舵を切る時期に来ているのではないでしょうか。今までの看護管理者の努力や頑張りは、さらに他施設と情報共有することで病院間の連携を強め、未来の医療を変える希望につながると考えています。
 ドラッカーは著書『明日を支配するもの』の中で、定年が早く、労働市場が硬直的な日本が最も深刻だとしています。例えば、以前SARSの影響で外国人労働者が不足し地方の中小メーカーが青くなったことがありました。同様にコロナ禍でも外国人労働者は激減しました。看護や介護界が人手不足に疲弊し、希望が見えにくい将来に混沌としている困難な状況の中で、持てる力を最大限に発揮し、見えない敵と日々奮闘している姿は国民に届いております。
 皆さんへ、エールを送れるとしたら、毎日の積み重ねが将来に繋がり、将来を変えることができるのは皆さんの力であることを、今ここで力強くお伝えしたい。未来を変えられるのは誰でもない、皆さんであること私は強く念じてやまみません。

餅田 敬司

京都橘大学 看護学部

▼出典元 メディカファン2022年2月 あなたへのエール
~看護管理者として新型コロナウイルスとどう向き合うか~
ドラッカーの言葉から看護の未来へ!
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