コロナ禍で増えたストレスケアの依頼
私は3年前にオフィスJOCを起業し、「ケアする人をケアする」「がんばリーダー※を応援する」「対話の場をつくる」をコンセプトに全国の医療現場で人材育成と相談業務を行ってきました。中でもコロナ禍ではストレスケアの依頼が増加しました。気になるのは、がんばって、がんばって、これ以上がんばれないほどヘトヘトになっている看護管理者が非常に多いことです。看護管理者は、まずスタッフの支援を優先して、自分たちを置き去りにしている傾向があります。看護管理者たちが語り合う場や癒し合うための「対話の場づくり」が急務だと感じています。
※責任感が強く、すでにはかり知れないほどがんばっているリーダーのこと
自分を置き去りにする看護管理者たち
とある病院の看護部長が血相を変えて相談してきたことがありました。コロナ患者への対応でスタッフが疲弊しているため、スタッフの気持ちを吐き出す場がほしい、看護師長たちと一緒に対話の場を作りたいので、一緒に手伝ってもらえないかという内容でした。私はその看護部長に、「スタッフもいいけれど、看護部長のあなたや看護師長は吐き出さなくてもいいんですか?」と尋ねました。すると彼女はハッと我にかえった様子で、「私たちも参加してよいのですか?」とキラキラした目で答えました。
対話の場として、看護部長も含めた看護師長4~5人で2回に分けて機会を設けました。はじめは「がんばったこと」「大変だったこと」を付箋に書いて貼り付けたものを皆で見ながら語り合いました。毎朝会議を開いたこと、大量の情報収集をしたこと、刻々と変わる事態に対応したこと、プライベートの生活に不安があったこと……。看護部長も看護師長も次々に自身の体験や感じたことを語っていきました。
そんなとき、看護部長がポツリと言いました。「師長たちの心のケアでは、声をかける以外に看護部長としてもっとやれたことがあったのではないでしょうか」。すると看護師長たちは「私たちはスタッフたちへ声をかけることに精一杯でした。だから、自分たちは部長に声をかけてもらうだけで嬉しかったのです」と言い、互いに涙を流しながら語り合っていました。
この対話の場の振り返りでは、看護管理者からこんな感想が寄せられました。
●参加者が同じ仲間として経験を振り返り、共感し合うことで、自分を認める機会をもらった。
●自分のことを後まわしにして、「周りをどうにかしなければ」と焦っていた。
●まずは自分自身を大事にしたいと思う。
●大変だったことを話せてスッキリした。早く帰ります!
●自分を愛すること。まずは自分を大切にして、癒してあげたい。
この対話の場を通じて、コロナ禍で責任感の強い管理者たちが頑張っていた様子が痛々しいぐらい伝わってきました。そして同じような思いや気持ちを持つ管理者同士が対話をすることで、互いに支えられていることに気づき、少しずつ自分を取り戻していく姿も見ることができました。
絵本で紡ぐ「自分との対話」「他者との対話」
私はコロナ禍で、医療の現場でがんばっている方たちに向けて『がんばらなくてもいいんだよ~いのちの現場で働くあなたへ 絵本からの40のメッセージ』という本を執筆しました。この本には40冊の絵本が掲載されています。絵本からのメッセージを受けとりながら、「考えてみましょう」の問いに答えることで、自分と向き合い、自分と対話できる内容です。自分で内省化したら、次は仲間との対話に使ってみてください。絵本を題材にすることで、その場を和ませながら、課題や問題について互いに深く考えることができます。
「大人が絵本なんて」と思う人がいるかもしれません。しかし、大人は人生経験が豊かだからこそ、絵本の中の世界に想像が膨らみ、自分の考えや思い、気持ちが引き出されていくのだと考えます。大人にとっての絵本とは、自分の考えを深めるだけでなく、視野を広げ、想像力を豊かにするものなのです。
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コロナ禍の今は、あいまいで、複雑で、未来が見えない時代です。だからこそ、多様な人たちと経験や考えを真剣に語り合うことで、思いもよらない発想や生きるヒントが見つかるのではないでしょうか。コロナ禍をどう生きるか、どうやり過ごすか。今こそ「自分との対話」「他者との対話」を実践してみませんか。
岡山 ミサ子
オフィスJOC
(Japan Okan Consultant)
▼出典元 メディカファン2021年11月 あなたへのエール ~看護管理者として新型コロナウイルスとどう向き合うか~ がんばらなくていい 今こそ自分と、他者と「対話」しよう!
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