●学生の不安を受け止める
2020年3月から日本での新型コロナウイルス・パンデミックが始まり、臨床現場がどれほどの不安や疲労に苛まれながら患者ケアに向き合っているかを目の当たりにして、その過酷さに心が締め付けられる思いでした。当初は社会の偏見もあり、教え子たちがどんな体験をしているかが心配でもあると同時に、その場に身を投じて献身的にケアしている姿は誇らしいとも感じていました。また、このような変化するパンデミックの状況に対応しつつ、看護師たちをまとめ継続的にケアを提供していく体制を整える看護管理者の方々には感謝しかありません。
新型コロナウイルス・パンデミックは看護教育にも多大な影響があり、それは今でも続いています。筆者は2年生の基礎看護学実習を担当しており、予期しなかった感染症まん延の状況変化に大変戸惑い、学内実習で学生たちにどうやって実習の経験に近い学習効果を与えることができるかという試行錯誤を続けてきました。学生たちも病院での実習を体験できずに卒業してしまうことをとても不安に感じていましたし、また卒後に自分たちが新型コロナウイルス感染症患者をケアする立場になること自体にも不安が強い状況でした。2020年に学生たちを対象に簡単なアンケートをとったところ、およそ半数が「看護師になる」という気持ちに影響したという結果でした。学生たちが学習意欲を失わないよう、看護の素晴らしさと、今こそ看護が求められているということをこれまで以上に伝える努力をしています。
●学生が現場の看護師から学んだこと
ほとんどの病院で実習が中止となる中で、一箇所の病院に許可していただき、期間を短縮する形で病院実習を実施することができました。学生たちは感染症予防策を十分に行った上で参加しましたが、「感染するのでは」「看護師たちはピリピリしているのでは」などの不安もあったようです。しかし、実際は温かく迎え入れていただき、熱意ある態度で患者ケアに従事する看護師の姿から多くを学ばせていただきました。実習受け入れというリスクを負いながらも、学生たちに指導いただく環境を整えていただいた看護管理者の方々には心から感謝しています。
新型コロナウイルス・パンデミックの只中にある看護師たちの体験と思いについて、4年生の学生とともにインタビューすることができました。学生たちは現場の看護師に対して、報道にあるような「医療崩壊、極度の疲労、離職、偏見」という負のイメージしか持っていませんでした。また、自分たちはそのような現場で看護師として働けるのかという漠然とした思いを抱いていましたが、看護師たちは感染防止に十分注意しつつも、患者ケアをあきらめずさまざまな工夫をしていました。学生たちは、正しい知識を身に付け、自分の看護師としての役割認識や意志を持つことで、新型コロナウイルス・パンデミック下でも看護師として成長していけるのだと学びました。また、困難な中でも看護師たちを支え、組織を成長させるマネジメントを行う看護管理者の存在の重要性を学ぶことができました。
●コロナ下での新しい動きに向けて
新型コロナウイルス・パンデミックは、現状の医療体制に関するさまざまな課題を露わにし、また大きく前進させようとしています。その一つが多職種によるタスクシフト・シェアの動きです。2021年の医療法改正では、それぞれの専門分野で多職種による業務拡大が実現しています。今回、本テーマに関する増刊号編集に携わる機会を得ました。看護師と看護補助者の協働に関する座談会では、看護管理者が大きな役割を持っていることが語られました。この変革の時、看護管理者の前例や習慣にとらわれないマネジメントが重要なのだと考えます。どうぞご自分のお体を癒やしつつ、そのお力を存分に発揮していただきたいと思います。
この状況下で筆者が見直しているのがナイチンゲールの言葉です。彼女は、「病人の看護と健康を守る看護」1）の中で「看護とは何か。（中略）自然が病気や障害を予防したり癒やしたりするのに最も望ましい条件に生命を置くことである」と言っています。まさにこのパンデミック下では、自然と人との関わりを促進する、言い換えれば自然治癒力を高める全人的な看護がより求められているように思います。心からの感謝と応援の気持ちを込めて。
引用文献 1）フローレンス・ナイチンゲール著．薄井坦子ほか訳．病人の看護と健康を守る看護．看護小論集：健康とは病気とは看護とは．東京，現代社，2004，42．
堀込 由紀
群馬パース大学
保健科学部看護学科
▼出典元 メディカファン2022年4月 あなたへのエール ～看護管理者として新型コロナウイルスとどう向き合うか～ 学生に勇気を与える現場の看護師と看護管理者の存在
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