●ジレンマと疲弊の日々
世界で初めて新型コロナウイルス感染症がWHO（World Health Organization：世界保健機関）に報告されたのは、2019年12月31日のことでした。感染は、瞬く間に世界中へと拡大し、医療現場は逼迫していきました。マスクは品薄となり、業者からの安定供給も見込めなくなりました。マスクの使用方法を見直し対処するものの在庫は底をつき、ディスポーザブル製品を再利用しなくてはならない事態に陥りました。
スタッフの安全を守りつつ、医療材料の使用制限も同時にかけなければならないジレンマ、未知のウイルスを相手にせめぎ合いの日々でした。次第に各施設における行動指針が策定され、医療職は日常生活においても制限を受けるようになります。自主的に病院近くのホテルを確保し、家族感染を防いだスタッフもいました。そんな折、医療職や家族に対する差別的な問題が全国的に生じるようになります。報道を見ながら、緊急事態宣言が発令されるなか、身勝手な行動で感染した患者らも他の患者同様に変わりなく診療する医療職に対して何たる冒涜かと憤ったことを、今でも覚えています。病棟再編や日々さまざまなコロナ対応に追われ、疲弊し、心を病んだり退職に至るスタッフも……。身を切られる思いだった管理職も多いのではないでしょうか。
●振り返りでコロナ禍の経験を糧とする
新型コロナウイルス感染症との付き合いも、今年で3年目に突入しました。この熾烈な経験は、単なる思い出話にするには釣り合いません。今後の糧とし、個々の成長につなげていきましょう。個人の成長には経験からの学びが強く影響します。私たちは、今回の経験から何を学んだのでしょうか。経験から学ぶためには、振り返りを行い教訓を活かすことが必要とされています。しかし、“振り返り”という言葉を耳にすると長い時間をイメージして敬遠しがちです。忙しい私たちにとっては、もっと短い時間でも効率よくできる方法が望まれるのではないでしょうか。
北海道大学教授の松尾睦先生は、職場における５分間のリフレクション・エクササイズを提唱しています*１）。方法は、至極簡単です。まず、①職場内で二人ペアをつくります。そして、②経験したことや学んだことを思い出します（１分間）。つぎに、③一人目が経験したことや学んだことについて語ります（２分間）。終わったら、④もう一人が経験したことや学んだことを語ります（２分間）。松尾先生は、さまざまな業種が参加する研修で取りくまれているそうですが、5分間で十分実践可能だと勧めています。また、エクササイズの留意点としては、聞き手は「傾聴」と「共感」を心がけることがコツだそうです。話し手が、「何が起こり」「どのように感じ」「何を学んだのか」に意識を集中させること、経験した本人自らが語ることで振り返りを促し、学びを引き出すことに主目的を置くことが肝心だそうです。日々、問題解決型思考で活動している私たちは、つい改善案が浮かんできたり評価をしがちです。患者の話を傾聴するときと同様に、大切な仲間の体験世界に寄り添うことが求められているのだと感じています。
●経験の共有をチームづくりにつなげる
振り返るテーマや対象とする期間は、職場に合わせてカスタマイズしてよいそうです。モチベーションが上がったこと、理念に沿った行動を１つ選んで経験と学びを振り返る、プライベートにおける少しうれしかった経験、などです。コロナ禍となり、マスク生活となったことで、雑談の機会も失われているように感じています。意図的にプライベートの経験を共有することで、互いの関心や価値観なども共有できると、チームづくりにもつないでいけそうですね。
これまで、つぶやきたいことは山ほどあれど、守秘義務の問題もあり、グッと堪えてきた方がほとんどではないでしょうか。そう、今こそ、つぶやくチャンスです。朝の朝礼、会議や委員会のアイスブレイクとして、仲間同士でつぶやき、何とか乗り越えてきたこの道のりから教訓を引き出し、次につないでいきましょう。そしていつか、全国の管理者と集い対面でつぶやきましょう。
引用・参考文献
*１）松尾睦．５分間リフレクション・エクササイズ，北海道大学経済学研究院
Discussion Paper, Series B，No155，2017，1-8.
内藤 知佐子
愛媛大学医学部附属病院
総合臨床研修センター
▼出典元 メディカファン2022年6月 あなたへのエール ～看護管理者として新型コロナウイルスとどう向き合うか～ 経験を教訓として活かす
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