いま、変わること、そして変えてはならないこと
◇陣田 泰子(看護現場学サポーター/聖マリアンナ医科大学 客員教授/聖マリアンナ医科大学病院 キャリアアドバイザー)

●新型コロナ感染症の功罪
 新型コロナ感染症の拡大が問題になり始めた2020年1月16日、国内初の感染者発表から早3年が過ぎる。ようやく5類へと移行したのは2023年5月8日のことだった。この間、コロナは私たちに様々な制約を課して不自由な日常生活を余儀なくされた。半面、「通常の生活は、いつ通常でなくなるのかは予測不可能だ」という現代のVUCA(ブーカ)時代の特徴を、身をもって教えてくれた。
 看護の現状で考えてみると、1つは教育形態の変化である。e-ラーニングはすでに導入されて久しいが、WEB研修・オンライン研修等のリアルタイムの双方向学習が、職場からでも自宅からでもいつでもどこでも活用できる範囲が一気に拡大した。教育は、直接顔を合わせなければ無理…という固定観念がみごとに打ち砕かれた。
 次にコロナによって、入院患者の病床編成が「科別」の固定型から流動化したことである。病院内の入院病床は、従来まで医師の専門に基づく編成になっていた。しかしコロナ感染拡大のピーク時にはコロナ病棟の設置が必要となり、どこかの病棟を変えて新設、あるいは病棟編成を変えなくてはならなかった。そこで急遽、従来の科から異なる科への異動が発生した。コロナ病棟勤務が不安で退職したナースや、従来の勤務病棟から他科への異動が退職理由に繋がった施設も多くあったことを聞いた。これらの<変化>が、コロナ感染拡大によるナースたちの混乱の大きな要因になったことはまちがいない。
 1年、2年、さらに長びく新型コロナ感染症拡大により勤務形態の流動化が続き病棟が変わる。しかも急遽変わるという<動き>にはついていけなかった、ついていきたくなかった、ということである。
 しかしよく考えてみれば、医療の大きな特徴は<動的・かつ複雑系>という点にある。病態は刻々と変わっている。今は安定している人が急変する。それは自宅でも起こるが、その頻度が高いのが医療現場である。さらにこの先予測できない各種災害が起きた場合、瞬時に動くためにも、<科>を越えていつでもどこでも良質な看護が提供できるために、われわれは<変化>しなければならない。

●この先何が起きても、どのような状況にあっても、看護を提供できる力
 予測を超えた様々な<変化>に対応するために、広い視野と深く考える力、即ち認識を鍛えて、いつでもどこでも、何があっても対応できる汎用知とする必要がある。深堀した専門的知識と広く対応できる汎用知の両者があって、多様な社会に生きる人々に貢献できる。
 医学は、生物学的アプローチを主としており、看護は、それに加えて一人ひとりのいのち、生活人生の意味を紡ぎだす。<看護という仕事>に携わる専門職は、疾患から知識・理論を越えた実践知を紡ぐ仕事である。そのためには自らの知、さらにチームの知を広げ、深めていく「看護実践の概念化」が必須である。人・もの・金・情報・時間、いま満ち足りている職場はほとんどない。その医療現場でよみがえるいのち、また消えゆくいのち、どのようないのちであっても、その人が生きてきた歴史がある。限られた資源の中で最善の看護を提供し意味づけていくための<概念化>、私のこだわりはそこにある。この本質を変えないために、今、変えなくてはならない現状がある。

●おわりに
 私たちは、この深淵な<看護という世界>に踏み込んだ者としての責任がある。コロナで未だ疲弊した現場であるが、いま看護師を続けている人たちは困難を学びに変えて継続してきた人たちである。だからこそ悩み、もがき、何とかできないかと自問自答している人たちである。まさに専門職としての葛藤を抱えながら、それでも学び続けている誇り高き仲間たちである。

陣田 泰子

看護現場学サポーター
聖マリアンナ医科大学 客員教授
聖マリアンナ医科大学病院 キャリアアドバイザー

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▼出典元 メディカファン2023年11月 あなたへのエール
~看護管理者として新型コロナウイルスとどう向き合うか~
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