第1回 中途採用者の定着支援(スタッフへのキャリア支援) 

看護管理者自身が「自分らしく生きる」

私は長年、看護職のキャリア支援に携わってきました。その知見を踏まえ、スタッフのキャリア支援の観点で、皆さまのお役に立つ内容を取り上げていきたいと思います。

まず、スタッフへのキャリア支援の最大のポイントは、「組織で活躍してもらうための人材育成」と「自分らしく看護師として生きていくための考え方」とを融合させることです。仕事とプライベート(自分らしさ)が乖離していて、その両者のバランスをとるという考え方では、人口減少社会を乗り越えていくことができません。

働き手が不足していくこれからの未来に必要な、生産性を高める働き方とは、まさに、看護師としての働き方が自分らしさに直結していくことなのです。人それぞれの働く意味を個人的価値観として受け入れながらも、大人として成熟していくプロセスは、利他的思考が自分らしく生きることにつながっていることに気づくプロセスでもあります。Well-being社会を支える看護職として、社会とどのようにつながっているのかを意識できるようなキャリアデザインが必要です。

利己的なキャリア観では「自分は何もできない」と考えがちです。しかし人は成熟していくと、自分は世界とつながっていて「自分にはできることがある」「すでに社会に貢献している」と気づくことができます。とくに看護職は人の人生に寄り添う仕事であるからこそ、その意味が理解しやすいでしょう。

つまり看護管理者だからこそ、スタッフが「生かされている自分」に気づくことができるよう、キャリアデザインを支援できるのではないでしょうか。そのためにも、まずは看護管理者自身が「自分らしく生きる」キャリアデザインを考えてみてほしいと思います。以下より、詳しく解説していきます。

中途採用者の定着支援

そもそも私が看護師のキャリア支援を始めたきっかけは、「同僚の看護師たちが退職していくのは、どうしてなのか。どうすれば止められるのか?」という気持ちからでした。

臨床で看護実践をしていたころ、学び合いの関係で一緒に働き続けたいと思っていた同僚が次々と退職してしまう状況を何とかしたいと思っていました。この気持ちが進化してキャリア支援を行う仕事を始めようと決意したのです。
でも何をどうしたらできるのか、収入になるのか―。わからないまま思考錯誤していたところ、ある看護部長が「当院の入職者の話を聞いてみてはどうか」と提案してくれました。
そこで中途採用者に入職後1か月・3か月・6か月と面談させていただき、「困っていることはないか」「いまの仕事は楽しいか」と聞きつつ、職場を変えた理由も聞くことができました。

さまざまな理由がありましたが、その多くは人間関係に起因していました。「もう少し丁寧に、早めに話をしていれば、何とかなったのではないか」と思うことも多くありました。
しかし本人にとっては「転職してみなければわからない、実感できない、納得できない」ことがあるように思えました。結局この人は転職する運命にあったのかもしれない…と思うこともありました。

とはいえ、既に転職してやってきた看護師に対して行うキャリア支援とは「いまの職場で定着すること」であり、まずは仕事内容、人間関係、通勤に慣れていくことから始めるしかありません。
働く場所が変われば「これまでできていたことが、できない」自分とも向き合わなければなりません。看護師としての実力だけでなく、いかに人との関係性や環境に支えられて仕事をしていたのかということに気づかされます。

多くの人は3~6か月で職場に慣れ、適応します。そこまでの期間に支援面談を行うと定着してくれるのです。それも、こちらから特別なアドバイスをするわけではなく、「自分がいま経験していること」を話してもらうだけで自分で思考や感情を整理されます。そこにはもちろん、キャリアカウンセリングとしての問いかけは必要です。

でも実は、その後が看護師としてのキャリアデザインの重要なところです。

どの人も、前職場で乗り越えられなかった課題と向き合う時がきます。そこで、自分自身で課題に気づいて乗り越える覚悟で職場を変えた看護師と、自分自身の苦しさを他者や組織に原因があると考えて転職した看護師には、同じ転職者でも大きな違いがあるのです。経験と知識が少ない看護師ほど、後者の思考に陥りがちであるのは言うまでもありません。

次回:子育て中の看護師のワークライフバランス

濱田安岐子(はまだ・あきこ)
NPO 法人看護職キャリアサポート 代表/株式会社はたらく幸せ研究所 代表取締役

約10年間、中規模病院の看護師として勤務。看護専門学校専任教員、医療系人材派遣会社などを経て、2006年から独立し、看護職のキャリア支援を始める。2010年NPO法人看護職キャリアサポートを設立。個人へのキャリアカウンセリングのほか、セミナー講師、コンサルテーションなどを行う。

▼看護部の「人と経営」を学び、考えるオンラインサロン「看護トップリーダーサロン」

*講義動画「看護管理者がスタッフ入職時に伝えたいキャリア形成の考え方」はこちら
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