よりよい組織作りを意識するために

第3回 よりよい組織作りを意識するために(成果を上げるBSC活用術)
「やるとよい」ことを実行できる組織が強い組織となる

これまでの回は、管理者にとっては当たり前のことだったかもしれません。
いろいろな公開セミナーでお伝えしていても「できたらいいよね(でも現実には難しい)」という感想をいただくこともあります。
当たり前のことを当たり前に行うことは、本当に難しいのです。

ただ、当たり前に、よいと言われていることを実直に行っている組織は実際にあり、そうしたところには「強さ」を感じます。
信頼関係で結ばれているため変化に強く、臨機応変な素早い対応ができる組織という意味での強さです。

図1「組織と人の成長を考えるフレームワーク」をご覧ください。
私は、組織も人も成長するための要素は同じであると考えています。
縦軸に重要度を、横軸に緊急性を示しました。
緊急性が高く、重要なものは当然取り組まなければなりません。
しかし、この緊急性と重要度が高いところ(①やらなければならないこと)ばかりに意識が向いていては場当たり的な対応になってしまい、成長につながりにくいものです。

図1 組織と人の成長を考えるフレームワーク

では成長する強さのある組織はどこに注目しているのでしょうか?
図で示すところの、必ずしも緊急性は高くないが重要度の高いところ(②やったほうがよりよいこと)にも、しっかり意識を向けられている組織が強い組織となります。
たしかに忙しい毎日でこの部分を意識することは難しいことも多いと思います。
ただ、①ばかりに意識が向いていては、②に力を入れることができないのもまた事実です。
意識をせずに過ごしてしまうと、①ばかりをこなそうとしがちだからです。
時に思い切って時間をしっかりとって、②に力を入れる勇気が、中長期的な組織の強さにつながると考えます。

みなさまの組織では①と②、それぞれどれくらいずつ意識が向けられているでしょうか?
ぜひ腰を据えて、じっくりと考えてみていただきたいと思います。

BSC等の仕組みを成功させる鍵は組織の循環にあり

私は、「目標を管理する仕組みを楽しむことはできないのか」という課題意識を持って、いろいろなお客様と楽しむことに挑戦してきました。
これまでに解説してきたとおり、仕組みをどう導入するかという組織ごとに行ってきた工夫により、実際に楽しむことができた組織が多いのですが、次にその成功要素を組織開発の視点から考えていきましょう。

図2は「ダニエル・キムの成功循環モデル」です。
このモデルでは、「どんな組織も同じように循環しているが、よくなる組織と課題のある組織ではスタート地点が違う」ということを表しています。
バッドサイクルになっている課題のある組織では結果の質からスタートすることで悪循環に陥り、グッドサイクルになっているよい組織では関係性の質からスタートすることで良循環となっています
これはまさに、BSC等の経営マネジメント手法の用い方においても同様だと考えます。

図2 ダニエル・キムの成功循環モデル

例えば、目標設定を行ったとして、その目標に対して職員それぞれがどのような役割であるか、お互いに理解し合っていますか?
目標を達成するには職員がそれぞれの役割において改善行動を起こす必要があるはずですが、お互いの役割が分かっていなければ当然行動が伴いません。
つまり、仕事をまっとうする組織において、関係性の質とは単なる「仲よしこよしの状態」ではなく、誰が何の役割を担うのかということもお互いに理解し合うことで尊重し合い話し合える状態かどうか、ということを意味します。
楽しんで行うためにも、誰が何の役割を担うことで目標を達成できるのか分かっていることと、困っている人がいたら何の役割について手助けが必要なのかが分かる状態であることは、目標をより達成しやすくなることにつながります。

目標という結果にだけ重きを置きすぎてしまうと、ただただ責任を押し付けてしまうことになりかねません。
組織が上手くいっていない、目標が達成できていない状態に気が付いたならば、今この組織はどこに重きを置いているのかを考えてみることで、改善の糸口が見えるはずです。

次回「なぜ病院・看護部でBSCが使われるのか」は8月上旬配信予定です。

初出:「ナーシングビジネス2023年秋季増刊」より一部改変


第2回 目標を組織で楽しむための3つのポイント

上村 久子
株式会社メディフローラ代表取締役
看護師・保健師・心理相談員

東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許取得後、看護師実務の傍ら慶應義塾大学大学院にて企業人事・組織論を勉強。大学院卒業後、医療系コンサルティング会社にて急性期病院を対象とした経営改善に従事。 現在は病院経営アドバイザーとして、医療機関所有データ(看護必要度データ、DPC データ等)を用いた病院経営に関するアドバイスやデータ分析研修会、診療報酬勉強会、組織活性化研修等の人材育成の研修・教育サービスを提供中。
専門は、院内データを活用した病院経営、看護マネジメント、人材育成。自らの臨床経験とデータ分析能力を活かし、大学病院からケアミックス病院まで病院規模や病院機能を問わず幅広く活動している。


ナーシングビジネス2023年秋季増刊
看護管理者のためのBSC(バランス・スコアカード)活用術
見よう見まね・我流から脱却する!

上村 久子 編著
メディカ出版 2023年11月刊行
B5判 156頁 3,080円(税込)
ISBN: 978-4-8404-8085-7

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