難しい部下とどう向き合うべきか

(VISIONARY-KANGOBU_No.5)

部下は上司に相反する2 つの要素を求める

さまざまな職場を伺っていると、指導が難しい部下についての相談をよく受けます。
まず、上司として部下に指導をしていく上で知っておくべきことがあります。
それは、部下は潜在的に上司に何を求めているか、何を期待しているか、ということです。
それは大きく2 つあります。1 つ目は、この上司のもとで自分は成長できるのか、そして、2 つ目は、この上司は自分のことを解ってくれているのか、です。
言い換えると、部下は上司に厳しさや威厳、頼りがいを求める一方で、優しさや包容力、温かさを求めます。

自分の言葉が部下に届かないとき

この2 つのうち、まずこのような部下との関係性において必要な要素は受容となります。
特に指導が難しい部下というのは、自分のことを解ってもらいたい、理解してもらいたい、という気持ちを人一倍強く持っています。
そのため、そのような姿勢を感じられない上司の言葉にはどうしても反抗的な態度を取ってしまいます。そして、そのような部下に対しては「指導しにくい」「何回言っても改善されない」「そもそも関わりにくい」という上司の話をよく聞きます。
このように指導が難しいと感じる部下がいる場合、多くの上司はその部下を問題視します。そして、この部下の〇〇がよくない、××を改善すべきだと、その部下を変えようとします。これが、上司が陥る最大の過ちです。

自分の言葉が部下に届かない場合、上司は矢印の矛先を自分に向ける必要があります。それは、伝わらないのは相手に問題があるのではなく、自分の伝え方や姿勢に問題があるのでは、という視点です。

部下を理解することから始める

まず、上司が部下と関わる上ですべきことは、部下一人ひとりのことをよく理解する、関心を示す、ということです。
生年月日、生まれ、家族構成、体調、どんな趣味があって、休みの日は何をしているのか、何が得意で何が苦手なのか、誰との人間関係が良くて誰とが悪いのか、仕事のこともそうでないことも含め、相手を理解しようとする姿勢は、部下からすると、この上司は自分に関心を持ってくれると感じます。
つまり、相手を理解しようとする上司の姿勢は、部下への存在承認になります。

価値承認と存在承認

承認というと、褒めると同義で使われることがあります。しかし、正確に言えば、承認には大きく2 種類あります。
1 つ目は価値承認、2 つ目は存在承認です。
価値承認とは、その人が生み出した成果や能力、行動に着目した承認であり、そこには必ず良い悪いという評価判断があります。
当然仕事には良い行い、そうでない行いがあるので、良い行動は認め、そうでない行動は注意する、ということになります。ここに価値承認の限界があります。
それは、上司にとって難しい部下というのは、良い行動というのが非常に少ないからです。そうなると必然的に、上司から部下に送られる承認のメッセージは少なくなります。

存在承認は「良い」「悪い」ではない

そこで大切になるのが、存在承認です。
存在承認とは、生み出す価値に関係なく、その部下が存在していることそのものへの承認です。
例えば、挨拶をする、声をかける、誕生日を祝う、労をねぎらう、話を遮らず最後まで聴く。ここには、良い悪いという評価判断がありません。
その中でも、挨拶というのは最も身近な存在承認です。特に上司が部下に挨拶をするという行為は、「私はあなたを見てますよ」「あなたを気にしてますよ」というその存在への承認メッセージとなります。逆に、挨拶がないということは、「私はあなたを見ていません」「気にしていません」という無関心のメッセージとなります。
だから、どんな部下であっても、まずもって上司は自分から部下に挨拶をする、という行為が絶対的に必要となります。

まず理解し、受け入れる

人は価値承認と存在承認のどちらを必要としているかと言うと、間違いなく存在承認です。
つまり、自分はただそこに存在することで受け入れてもらえる、これが人間の本能が求めるものであり、それを可能とするのは上司の中にある受容力です。

部下を注意する際は、その行為は良くない、と指摘をすると、多くの人は行為がダメと言われているにもかかわらず、自分がダメと言われていると勘違いします。
特に指導が難しい部下というのはここに敏感です。そのような部下ほど存在承認を強く求めています。
つまり、自分を受け容れてほしい、という想いが根底にあります。そのため、存在承認がない中で、一方的に指摘を受けると、どうしても反抗的になってしまいます。
だからこそ、まずもって相手を理解しようとする姿勢がそういった部下の心を開く鍵となります。
この上司は誰よりも自分を見てくれている、解ろうとしてくれている、その姿勢が感じられたとき、その上司の言葉は初めて部下に届き始めるのではないでしょうか。

渥美崇史(あつみ・たかし)
株式会社ピュアテラックス代表取締役。
大学卒業後、(株)日本経営に入社。ヘルスケアの業界を中心に人事コンサルティングに従事する。その後、人材開発・組織開発の分野に軸足を移し、リーダーシップ開発や組織変革に取り組む。2018年に(株)ピュアテラックスを設立。


カルチャー(組織文化)を問い直す(VISIONARY-KANGOBU_No.4)

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