カルチャー(組織文化)を問い直す

(VISIONARY-KANGOBU_No.4)

人材開発・組織開発のコンサルティングに関わらせていただく中で、最近のトピックとして多いのは、カルチャー(組織文化)にまつわることです。
カルチャーとは、その組織でなんとなく共有される思考・行動の枠組み、自分たちの常識(当たり前)であり、組織のOSとなる深層領域です。

言語化されてはいないが暗黙知としてメンバーで共有されていることが多く、メンバーにとっての意思基準となったり、違いが「明確化」されることにより、自組織のカルチャーにあった人材が集まりやすくなったり、模倣されにくい経営資源として競争力を高める要素にもなります。

一方で、共有された価値観から外れるような発想、言動は生まれにくかったり、これまでのやり方に対して、意味の問い直しや疑問を感じづらくなったり、強いカルチャーが、違う価値観や新しい考え方を排除してしまうといったことも起こります。

つまり、常に正しいカルチャーは存在せず、どんなカルチャーにも、ポジティブな側面とネガティブな側面があります。

しかし、ネガティブな側面がポジティブな側面を上回ってくると、様々な不具合が事象として起こり始め、様々な対策を講じてもどれも場当たり的で本質的な解決には至らず、最終的には組織が内部から崩壊する、といった事態は決して少なくありません。

例えば、近年で言えば、ジャニーズ事務所、ビッグモーター、宝塚歌劇団などで起こった不祥事は、古く硬直した組織文化が時代の変化に適応できず、事故という最悪の事態として表面化することで、強制的にストップがかかったケースであり、専門家の立場から見ると、これは組織の深層部にある最も見えにくいカルチャー(組織文化)によって引き起こされている事象であることが読み解けます。

カルチャーが引き起こす問題には、2つの特性があります。
1つは、内部で働くメンバーは気づきにくい、という特性です。前述したとおり、カルチャーは自分たちにとって当たり前のことであり、そもそも課題解決の対象になりません。

他人の家の匂いは気づくが、自分の家の匂いはあたり前すぎて気づかない、それぐらい、自分たちのカルチャーが何かを自覚することは内部で働くメンバーにとって困難です。
そのため、危機が迫って初めて、自分たちは間違っていたことに気づく、というケースが多々あります。

2つ目の特性は、仮に気づいた人がいて、何らかのフィードバックをしたとしても、少数派意見として弾かれてしまう、という特性です。
カルチャーはその組織の大部分の人たちで共有している思考・行動基準であるため、それとは異なる規範や考え方は、自分たちの枠組みを脅かすものとして排除されやすい傾向があります。

実際のところ、強い違和感を持つ人はそもそも入らないか、入ったとしてもすぐに辞めてしまいます。逆に残る人は、その組織のカルチャーに適応することに成功した、と見ることができます。

“郷に入れば郷に従え”と言いますが、外から入った人は、その組織のやり方を否定して、違うものを持ち込んでも、上手くいかないのです。

では、カルチャーは誰がアプローチしていけるのでしょうか。
まず前提として踏まえておかなければいけないことは、カルチャーを変えられるのは基本内部の人間である、ということです。

つまり、内部で何かしら違和感を持った人たちが、声を上げて変革を進めていく、これが健全な組織のあるべき姿だと思います。もちろん、そのプロセスで外部の力を借りることも有効ですが、そもそも論として内部でその違和感に気づき、何とかしたいという想いを持った人の存在が必要となります。

特に職位で言えば、師長(課長)クラスは、組織のヘソとも呼ばれ、現場の状況も理解し、経営の声も聞こえてきやすい、組織全体を見渡すことができる重要なポジションです。組織の未来を憂いて課長クラスが推進役となって変革を進めていくケースは少なくありません。

もちろん部長クラスでもよいのですが、実際には部長クラスは既存のカルチャーのど真ん中に位置しているため、組織の中に起こっている小さな違和感に気づきにくく、むしろ既存のカルチャーを守る側に位置するケースが多いと言えます。

だからこそ、立場が上がれば上がるほど、自分が普段から吸っている空気がどんなものなのかを客観的に知ることが必要です。

そのためには、むしろ職場外での他業種との交流や仕事外の活動(趣味や地域活動)などを通して異文化に触れる体験、または客観的なフィードバックをもらえる存在(利害関係のない友人やコーチなど)を身近に置いておくことが、自己変革能力だけでなく組織の変革能力を高めていくことに繋がります。

渥美崇史(あつみ・たかし)
株式会社ピュアテラックス代表取締役。
大学卒業後、(株)日本経営に入社。ヘルスケアの業界を中心に人事コンサルティングに従事する。その後、人材開発・組織開発の分野に軸足を移し、リーダーシップ開発や組織変革に取り組む。2018年に(株)ピュアテラックスを設立。


どうしたら対立を乗り越えられるのか ~討論からダイアログへ~(VISIONARY-KANGOBU_No.3)

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