バーンアウト(燃え尽き症候群)にならないために必要なこと

(VISIONARY-KANGOBU_No.9:最終回)

バーンアウト(燃え尽き症候群)の増加

世界最大の人材開発・組織開発団体であるATD(The Association for Talent Development)のカンファレンスが、今年は5月に米国ニューオリンズで開催されました。
その中で、管理者の負担増大やバーンアウト(燃え尽き症候群)、孤立、静かな退職といったテーマがトピックとして挙げられました。

私の現場感覚としては、管理者の疲弊感は10年ほど前からその兆候がありますが、いよいよ待ったなしの現実課題として、世界共通のテーマとなってきていることが伺えます。
また、ギャラップ社の調査データによると、従業員の60%が「仕事から心が離れている」と回答しています1)

過去1年間で新しい仕事を任され、業務内容が変化したことが大きなストレス要因となっており、それに伴い、バーンアウト(燃え尽き症候群)や離職リスクが増加するといった現象が起きているようです。
このことからも、組織が健康であること、人が健康であることが、パフォーマンスを高めていく上でも、より重要な因子となってきていることがわかります。

特に管理者の皆さんは、人材不足による一人ひとりの業務負担増や人材の質の低下によるスタッフの指導負担などが重なり、これまで以上に強いストレスを感じながら職務に邁進されていると思います。
管理者にのしかかるプレッシャーはこれまで以上に強くなっており、自分の気持ちをどう維持していくかは、管理者一人ひとりにとって死活問題と言えます。

一般的に管理者を任される方というのは、責任感が強く、自分に厳しく、真面目な方がとても多いのが特徴です。
任された以上最後まで投げ出さない誠実さがあるからこそ、管理者に任命されるのですが、この真面目さや責任感の強さは、ときに自分を苦しめる諸刃の剣になりかねません。
自分に厳しい方はどれだけ苦しくてもギリギリまで我慢してしまうため、どうしても自己犠牲的になりやすく、ある日突然体調を崩す、ということも少なくありません。

管理者という道のりは長期的かつ永続的なものでもあります。
だからこそ、困ったときは助けを求める、相談する、苦しいときは苦しいと言う、といったことが自分自身の気持ちと折り合いをつけるためにはとても重要となります。

人に弱さを見せられますか?

近年、レジリエンスという言葉が管理者の要件として重要視されるようになっています。
レジリエンスとは「困難にぶつかっても、素早く立ち直り、乗り越える力」のことを言い、端的に言えば、打たれ強さ、折れない心のことを意味します。
では、そういった打たれ強さや折れない心を身につけるためにはどうすればよいのでしょうか。

一朝一夕にできることではありませんが、自分は弱い人間である、ということを自覚するところから始まります。
強くあらねばと思っている人は、人に弱さを見せることができません。
つまりSOSが出せないのです。
弱さを見せることは強さの証でもあり、弱さの中にこそ人間としての本当の強さがあります。

管理者は人を助ける立場でもありますが、一方で、周囲が助けたいと思われる存在であることも大切な要素です。
なぜなら「あの人は私たちがいなくても大丈夫だ」と思われるよりも、「あの人は私たちがいないとダメだ」と思われる管理者の方が、スタッフの貢献意欲を引き出すことにつながるからです。

人は誰でも「誰かの役に立ちたい」という本能があります。
いつも頑張っている方ほど、自分の弱さをオープンにすることは、スタッフとの絆を強め、チームの力を引き出すことにつながります。
察してもらうのではなく、気づいてもらうことを待つのでもなく、自分が自分のSOSに気づく、自分が自分の一番の味方であるという視点が、レジリエンスを高める上では重要と言えます。

安心できる居場所をつくる

それでも弱音が吐けない、SOSを出すことが苦手な方もいらっしゃるかと思います。
その場合、「逃げ場」をつくる必要があります。
これは「居場所」といってもよいかもしれません。

居場所とは物理的な居場所でもあり、精神的な拠り所となる居場所でもあります。
人は常に居場所を必要としており、「自分には居場所がない」と感じるとストレス度が過度に高まります。
職場が自分にとっての居場所であれば問題ないでしょう。
しかし、職場はさまざまな利害関係が絡む場であり、必ずしもいつも居心地がよい場とは限りません。

そのようなとき、第2の居場所となるのが家庭です。
家庭が自分の気持ちを温められる場であれば、バランスをとることができます。
しかし、現実的には第2の居場所である家庭が居場所として機能していない方も存在します。
そうなると職場も家庭もストレスと、自分が安心できる居場所がなくなります。

そこで第3の居場所(サードプレイス)が必要となります。
人によってはそれがカフェで一息つくことかもしれません。
趣味仲間で集まる場かもしれませんし、ヨガをすることかもしれません。
友人にグチを聞いてもらうこと、もしくは山の中でソロキャンプをすることかもしれません。

いずれにしても、長く管理者をやっている方は必ずそのような精神的な拠り所を自分なりに持ち、自分の気持ちとの折り合いをつけているように思います。

引用・参考文献
1)Clifton, J. The World’s Workplace Is Broken ― Here’s How to Fix It. Workplace. GALLUP, 2022.
https://www.gallup.com/workplace/393395/world-workplace-broken-.aspxpx

渥美崇史(あつみ・たかし)
株式会社ピュアテラックス代表取締役。
大学卒業後、(株)日本経営に入社。ヘルスケアの業界を中心に人事コンサルティングに従事する。その後、人材開発・組織開発の分野に軸足を移し、リーダーシップ開発や組織変革に取り組む。2018年に(株)ピュアテラックスを設立。


進化するマネジメントのアプローチ~アプリシエイティブ・インクワイアリー~(VISIONARY-KANGOBU_No.8)

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