「正しいこと」をしよう

 毎年、多くの看護学生が国家資格をもって医療の現場に飛び込んでいきます。筆者はそのような学生たちに医療経済学の講義を通じてメッセージを伝えるよう心がけています。その一つが「正しいことをすることと、正しく行うこととは違う」というものです。マニュアルやガイドラインが溢れる世の中では、それらに従っていればよいという考えに陥りがちなのですが、「本当にそれでよいのか?」と問いかけるのです。幸いなことに、学生たちもそのことに漠然とした疑問を抱いているようです。
 もとより、医療は高度な専門性を求められますが、併せて、最適あるいは最善を希求するプロフェッショナル・オートノミーが存在することを忘れてはなりません。最低限を保証すること(水準)は信頼のもとになるでしょうし、最善を求めることは満足につながることでしょう。それらの信頼や満足は、患者に対してだけではありません。同僚との間や、他施設との間でも同様に作用するばかりか、自分自身にも作用することでしょう。
 とはいうものの、「正しいこと」かどうかを判断するのは難しいことです。経験の乏しい若手にとってはなおさらです。知識や技量も未熟な者に、自分で判断しなさいというのはあまりに酷な話です。そのような事態が起きないよう組織が存在するのです。先輩、ベテラン、看護師長、看護部長、病院長が階層的に配置されていることの意義なのです。
 管理職や経営者には、組織を合理的に動かすというテクニカルな要請のみならず、正しいか正しくないかを評価し、プロフェッショナル・オートノミーを守ることも要請されることになります。私は後者を重視します。なぜなら、自律した専門職が嬉々として働く職場は、創発的に組織化がなされるという現実を目にしてきたからです。このことは、コロナ禍の3年を振り返るだけでも十分なほどの実証がなされるでしょう。
 患者を気にかけ、同僚を気にかけ、新人や若手を気にかける。気にかけることがマネジメントの本質なのです。

谷田一久(たにだ・かずひさ)
医療経営学者。地域の医療提供体制と公立病院の経営が主たる関心領域。多くの公立病院で経営委員
を務めた経験を、学問的背景とともに次世代に伝えることが使命。正直・慈悲・智恵が信条。鳥取県
米子市出身。

▼出典元 Nursing BUSINESS(ナーシングビジネス)2023月6号
https://store.medica.co.jp/item/130212306
▼Nursing BUSINESS(ナーシングビジネス)トップページ
https://store.medica.co.jp/journal/21.html
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