3年前、ベルリンにあるESBZ という名の中学校の見学に行きました。『ティール組織』の本の中にも記載のあるユニークな学校です。一斉授業がほとんどなく、カリキュラムは子どもたち一人ひとりが自分で決めます。また、異なる学年や障害を持っている子、難民の子なども一緒に学び合うことで、学びの向上につながるだけでなく、人間性を育んでいきます。そんな学校の先生の一つのセリフがとても印象に残っています。
「すべての子どもたちは本来、好奇心があり学ぶ意欲を持っている。もし、学びたがらないことや問題があるとしたら、学校側が何か間違ったことをしているのです」
このセリフを聞いたとき、同じくティール組織に紹介されているオランダ最大の在宅ケア組織ビュートゾルフの代表であるヨス・デ・ブロック氏の言葉を思い出しました。
「すべての看護師はその仕事を選んでいるという時点で、人に対して何かしたいという善意の想いがあるものです。そんな人たちの集まりに余計なルールや仕組みは本来必要がないのです」
ティール組織の各種事例は従来の組織に比べ、極端にルールや手続きが少ないことがよく言われています。性悪説よりも性善説であり、経営者や間接部門が一方的につくって導入するということも少なく、みんなで話し合って構築することも多い。組織全体で一律ルールというより、地方と都市部の看護で、また障害者向けと高齢者向けでサービスが異なるように、運用ルールもチームに応じて柔軟に構築していきます。
意思決定も従来組織では階層構造によるものが中心ですが、ティール組織では現場のチームや個人が自ら決定することを重要視しています。重大リスクを除いては過度にリスクを未然に防ぐことを重視せず、より利用者に寄り添った柔軟な意思決定ができることでサービス向上や働く人たちのやりがいにつながるのです。
こういった組織の構造やルール・プロセスの特徴をティール組織では「自主経営」と総称しています。皆さんのチームや組織が人を信じたアプローチになっているか、一度問い直してみるのはいかがでしょうか。
嘉村賢州(かむら・けんしゅう)
東京工業大学リーダーシップ教育院 特任准教授。場とつながりラボ home’s vi 代表理事。兵庫県明石市生まれ。京都大学農学部卒業後、IT 企業営業職、ベンチャー企業経営者を経て現在に至る。「ティール組織(英治出版)」解説者。
▼出典元 Nursing BUSINESS(ナーシングビジネス)2022月5号 https://store.medica.co.jp/item/130212205
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