魂という野生動物を表に招く

 普段、私たちは職場において役割という仮面をかぶって仕事をしています。そのこと自体は問題ではありませんが、その仮面によりありのままの個性のある人間性が置き去りにされる場面があります。ティール組織ではその仮面を外して、ありのままに働けないかと呼びかけています。家族と過ごすように、友達と過ごすように職場でありのままでいられないか問いかけます。さらにフレデリック・ラルーは『ティール組織(英治出版)』の中で、教育学者のパーカー・パーマーの言葉を引用し、次のようなことを語っています。
 魂とは野生動物のようなものだ。魂は強靱で、粘り強く、抜け目なく、機知に富む。魂は厳しい場所でも生き抜く術を知っている。しかし魂は、その強さにもかかわらず引っ込み思案でもある。まさに野生動物と同じように、魂は茂ったやぶの下に逃げ込もうとする。してはならないのは、森の中を突進して「出てこい!」と叫ぶことだ。残念なことに、私たちの文化に存在しているコミュニティーとは、森の中を全員で突進し、魂を怖がらせて追い払う人々の集団を意味することが多い。こういう環境では、知性や感情、エゴは出現するが、魂は出てこない。私たちは尊敬に満ちた人間関係や、善意や希望といった魂のこもったものをすべて怖がらせて追い払ってしまうのだ。(筆者要約)
 ティール組織では、少しでも攻撃的な表現や論争が話し合いの中で起こりかけたら、チーンとベルを鳴らし、音の鳴っている間は発言禁止というルールをつくったり、「急に怒鳴る」とか「陰口」を職場からはなくそうと明文化したりするなど、さまざまな仕組みで「全体性」を保つ試みがあります。 
 こういった環境の中で、働く一人ひとりは役割を超え、仕事を通じた人生の目的の探求が始まります。外側の正解に合わせる仕事の仕方から、内側からあふれる思いやりや倫理観で仕事をしたとき、時に思わぬ新しいサービスや業務改善が立ち現れることがあります。そうして働く一人ひとりが日々の仕事や組織全体のあり方を問い、進化し続ける。「存在目的」をみんなで探求する組織が、先の見えない今の時代にとても大事になってきているのです。

嘉村賢州(かむら・けんしゅう)
東京工業大学リーダーシップ教育院 特任准教授。場とつながりラボ home’s vi 代表理事。兵庫県明石市生まれ。京都大学農学部卒業後、IT 企業営業職、ベンチャー企業経営者を経て現在に至る。「ティール組織(英治出版)」解説者。

▼出典元 Nursing BUSINESS(ナーシングビジネス)2022月6号
https://store.medica.co.jp/item/130212206
▼Nursing BUSINESS(ナーシングビジネス)トップページ
https://store.medica.co.jp/journal/21.html
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