患者満足度調査から医療の質を考える

 患者満足度については20世紀末から調査が行われるようになり、今では多くの病院が定期的に実施しています。発端はドナベディアンの医療の質に関する論文です。医療の質は構造・過程・成果で測定するとしながら、それらの評価の難しさや、相互の因果関係の不確かさから、患者満足度を調査することを提唱したのです。 
 しかし、ここで大きな疑問に遭遇します。患者の医療機関へのアクセスを保険者がコントロールするアメリカとフリーアクセスの日本では、調査対象になる患者の心理はまるで違うのではないかという疑問です。日本では受診する医療機関を自由に選べます。患者は、信頼できる医療機関、満足できる医療機関を選んで受診しているのです。案の定、どこの病院の患者満足度調査でも8割、9割の患者が「満足」と回答します。
 そこで考えます。「満足している患者に満足の中身を聞き出す方法はないものか?」と。人は言葉をもって思考します。そこで「よい病院とはどんな病院ですか? 思いつくことを記入してください」という自由想起の設問を患者に投げかけたのです。回答は驚くべきものでした。頻出の言葉は「患者」「親切」「医師」「看護師」「説明」だったのです。「設備」「専門」「治」という言葉はそれらに及ばず、さらに下位にある「時間」については使用者の半分が「時間外」をいい、半分が「待ち時間」で用いていたのです。中には「待ち時間が長い病院がよい病院」という回答もありました。日頃、病院側が患者満足につながると思い込んでいる項目が意外なほど下位にあったのです。
 この結果を得て、病院長は全職員に対して方針を述べました。「すべての職員は患者に対して親切に説明することを徹底してください。当院の患者はそこに当院のよさを見出そうとしているのです」
 この病院ではカルテを患者に提供します。開示ではなく提供です。難しい病気の説明には患者向けの資料をつくり、説明現場をビデオに撮影し、患者に提供しています。患者のみならず、患者のそばにいる家族にも医療者の思いが届くようにという思いがあるのです。
 「医療の質」の向上を目の当たりにした思いです。

谷田一久(たにだ・かずひさ)
医療経営学者。地域の医療提供体制と公立病院の経営が主たる関心領域。多くの公立病院で経営委員
を務めた経験を、学問的背景とともに次世代に伝えることが使命。正直・慈悲・智恵が信条。鳥取県
米子市出身。

▼出典元 Nursing BUSINESS(ナーシングビジネス)2023月5号
https://store.medica.co.jp/item/130212305
▼Nursing BUSINESS(ナーシングビジネス)トップページ
https://store.medica.co.jp/journal/21.html
Scroll to Top