同じ体験をした管理職からのサポート

大規模な災害や事故が起こると、関わった人に惨事ストレスが起こります。
多くの人は被災した直後からストレス反応を示しますが、管理職者は発災後しばらくしてからストレス反応を示す現象が見られます。
この現象は「遅発性ストレス」と呼ばれます。遅発性ストレスが起こる時期は、災害の深刻さによって異なりますが、災害後3カ月から1年ぐらいが多いようです。

管理職者のストレスが遅発しやすい理由としては、発災直後に意思決定すべき課題が多く起こること、業務が多忙になり自身の心身の健康状態に気づきにくくなること、部下の怒りが向けられやすくなること等があげられます。
さらに、管理職者は孤独になりがちで、人に相談しにくい立場にあることも重要な原因になります。

管理職者の遅発性ストレスを防ぐには、気分転換やレクリエーション、休暇、休養などの一般的なストレスケアのほかに、ふだんから自分のことを話せる仲間をつくっておくことが役立ちます。
他部門の管理職者や、同期の仲間、(運がよければ)話せる上司など、自分の心情や愚痴を聞いてもらえる人間関係が重要です。

さまざまな人間関係の中で、もっとも頼りになる相手は、類似した被災体験を持つ管理職者です。
私は山崎達枝先生(現四天王寺大学)との共同研究で、ある被災した看護管理職者に東日本大震災で被災した管理職者を紹介し、サポートを受けていただきました。
サポートは電話やメールで、たとえば「3日目ぐらいから、スタッフの不満が出てきますよ」などの助言や、管理職の大変さへのいたわりが伝えられ、管理職者のストレスケアに役立ちました。

同じような体験をした同職者からの支援を「ピアサポート」といいます。ピアは、同じ看護職、同じ管理職として話がわかり、気持ちが通じやすく、被災経験から適切なアドバイスができます。

消防ではピアサポート・システムが徐々に浸透していますが、看護職ではどうでしょうか。看護管理職者のピアサポートを考えてみませんか。

松井 豊(まつい・ゆたか)
社会心理学者。筑波大学名誉教授・消防大学校名誉教授、筑波大学働く人への心理支援開発研究センター研究員。対人関係、恋愛、惨事ストレスなどを研究している。

▼出典元 Nursing BUSINESS(ナーシングビジネス)2024月3号
https://store.medica.co.jp/item/130212403
▼Nursing BUSINESS(ナーシングビジネス)トップページ
https://store.medica.co.jp/journal/21.html
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