人材育成への活用

第9回 人材育成への活用(バイスティックの7原則)

現場への応用

バイスティックの7原則の基本姿勢や考え方は、クライアント(利用者)との良好な援助関係を構築するだけでなく、熟練者が経験の浅い専門職を直接指導していくうえでも大きな力となりえます。
医療や介護の現場において、人材育成はたいへん重要な課題ですから、ベテランになっても、管理者になっても、常にこの7原則は胸に刻んでおいてください。

病院や事業所の管理者は、個々の専門職の業務レベルを把握・管理するだけでなく、専門的知識や技術などに関して、不足している知識や技術がないかを常に確認しましょう。
そして問題があるようなら、どうすれば解決できるかを明確にし、具体的に教育・指導していくことが求められています。

また、医療や介護の現場では、患者さんや家族だけではなく、上司や同僚、ほかの専門職との人間関係や、業務の多忙さなどからストレスが生じやすくなります。
がんばっているのになかなか成果につながらず、疲れ果ててバーンアウトしてしまう人も多くみられます。
そのため、知識や技術の指導のみならず、熟練者からの心理的な支援がたいへん重要です。

何が困難かを明確化する

みなさんの部下や同僚の専門職が、みずからの業務に関して大きな不安を感じ、自信を失いかけている場合には、ぜひ管理者や熟練者がスーパーバイザー(指導・監督を行う人)の役割を果たしてください。
「何が困難となっているのか」「何が不安なのか」「何に自信がないのか」など、その心情や気持ちを確認し、問題を明確にしていくプロセスでのサポートがとても大切です。

訪問看護など在宅医療や在宅看護の事業所などにおいても、熟練者が経験の浅いスタッフを心理的に支えていけるよう、スーパービジョンを活用することが法定研修などで推奨されています。

スーパービジョンとは

スーパービジョンとは、スーパーバイザーとスーパーバイジー(指導・監督を受ける人)との関係における対人援助法です。
対人援助職が、その業務の困難さを直視し、みずからが考え、その解決に向けて取り組めるよう助けることにより、専門家としての資質の向上を目指すための教育方法です。

事業所の熟練者がスーパーバイザーとなって、経験の浅い専門職が抱えているストレスの要因に向き合い、その専門職がみずからの力でストレスを軽減・克服できるよう自己覚知を促していきます
それにより、支えられていることを実感し、困難なことに対しても冷静な判断ができるようになるとともに、前向きに業務を続けることが可能となるのです。

スーパービジョンの実施に際しては、スーパーバイザーの役割を担う熟練者の面接技術がカギとなりますが、その基本的な姿勢にバイスティックの7原則が大きく影響します。

初出:「透析ケア」2022年28巻8号より一部改変

白木裕子(しらき・ひろこ)
株式会社フジケア取締役社長
看護師、認定ケアマネジャー
日本ケアマネジメント学会副理事長

次回は「7原則を踏まえた支援」についてお話しします。


第8回 秘密保持の原則

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