非審判的態度の原則

第6回 非審判的態度の原則(バイスティックの7原則)

クライアントに対して善悪の判断を行わない

患者さんの日ごろの態度や言動などから、その人に嫌悪感を抱いたり、色眼鏡で見てしまったりすることはありませんか。
「非審判的態度の原則」とは、クライアント(利用者)の行動や考えに対して善悪の判断を行わないという援助者の行動規範のことです。

つまり、援助者がクライアントの抱えている問題やニーズに対して、その人にどれくらいの自己責任があるのか、そもそもその考え方は間違っているのではないか、などの判断をしないということです。
ただし、クライアントの言動に対して善悪の判断をしないといっても、それが社会的・法的・倫理的な基準から外れたものである場合は、この原則には当てはまりません。
非難しない態度と社会的規範を無視することはまったくの別物であると理解しなければなりません。

クライアントの防衛行為を理解する

医療や介護などの支援を必要としている人は、さまざまな苦痛や不安を感じています。
とりわけ、経済面や家族関係などに問題がある人は、そのことで自分が非難されるのではないかと恐れています。
そのため、自分が非難されないように不必要な防衛行為をとる人も多くみられます。

そのことが、援助者に問題の本質を見えにくくさせている一因になっているのです。
したがって援助者は、クライアントに対するネガティブな評価を保留し、粘り強くかかわっていく必要があります。

言葉を取り繕っても嫌悪感は伝わる

また、それと同時に、クライアントに対して非難しないということを明確に伝えることが大切です。
クライアントが非難されることを強く恐れている場合、援助者の根底に相手を非難する気持ちがあれば、言葉でいくら取り繕っても、それは伝わってしまいます。
とはいえ、嫌悪感を抱く人に対して非難の気持ちをもたないようにするのは、とてもむずかしいことです。

支援に携わる専門職だからといって、好きになれない人を好きになる必要はありません。
しかし、支援に携わる専門職だからこそ、自分の中にクライアントを非難しようとする感情や偏見があることを自覚しなければなりません。
そのうえで、みずからの心をコントロールしながら事実のみを客観視し、クライアントが抱えている問題の本質を見極めていくことが求められているのです。

患者さんや利用者にいやな一面があると、その部分のみがクローズアップされがちですが、援助者は事実を客観的かつ多面的に捉えていくことが大切なのです。

初出:「透析ケア」2022年28巻6号より一部改変

白木裕子(しらき・ひろこ)
株式会社フジケア取締役社長
看護師、認定ケアマネジャー
日本ケアマネジメント学会副理事長

次回は「自己決定の法則」についてお話しします。


第5回 受容の原則

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