第8回 秘密保持の原則(バイスティックの7原則)
情報漏洩は経済的・精神的損害を与える
医療や介護の場面で取り扱う個人情報は、住所、氏名、年齢、家族構成などの基本的なものにとどまらず、患者さんの病状や既往歴、障害の有無、居住している家屋の状態、かかりつけの医療機関や介護サービス提供事業者名など、個人のプライバシーの深部にかかわります。
これらの個人情報は、お互いの信頼関係があってこそ、看護師やケアマネジャーに話せるものです。
したがって、看護師やケアマネジャーは、業務上知り得た情報について秘密を漏らしてはならないのは当然であり、これは法的にも義務づけられています。
とくに近年、振り込め詐欺や悪徳業者による不必要な住宅リフォームの勧誘など、在宅高齢者を狙った犯罪も多く発生していることから、高齢者の生活情報に関しては、ケアマネジャーはじめ訪問看護師、利用しているデイケア・デイサービスなどの専門職にいたるまで、第三者が知ることのないよう厳重な管理が不可欠です。
万一、故意はもちろん、重大な過失により患者さんやクライアント(利用者)の個人情報が外部に漏れ、経済的あるいは精神的な損害を与えてしまった場合は、相応の責任を負わなければなりません。
日ごろから個人情報の管理に配慮する
病棟内では、個人情報のデータが外部に流出するような事故はあまり想定できないかもしれません。
それでも、たとえば退院時などに介護サービス事業者へ患者さんや利用者の情報をFAXする際に、番号を間違えて送信したり、コピー用紙の裏面をメモ用紙として使用した際、個人情報が印刷されていたりすると、個人のケアレスミスから大きな問題へと発展する場合もあります。
単純なミスでも個人情報が漏れてしまうと、患者さんや利用者に大変な迷惑をかけるとともに、所属する病院および事業所の信用も失ってしまうことを理解しておかなければなりません。
メモ用紙一枚でも、そこに個人情報が記されたものであれば、必要な処理を行った後は第三者の目に触れぬよう、シュレッダーにかけるなどして速やかに処理しましょう。
対人援助職ならではの倫理的配慮を
患者さんや利用者の個人情報の漏えい事故を未然に防ぐためには、個々人が意識するだけでなく事業所ごとに定期的に全員で「(漏洩につながる)こんなことをやってはいないか」「名前は出さずとも、利用者の病状や家庭の様子などを第三者に安易に話したりしていないか」など、日ごろから十分な配慮を行いましょう。
また、個人情報が記されたファイル等の紛失や盗難が起きてしまった場合には、迅速な対応を図れるよう、事前に手順などを理解しておくことも大切です。
事例検討・学会発表などで事例を提供する際には、個人が特定されないための倫理的配慮が不可欠なので、組織として管理上の手続きをあらかじめ確認することが重要です。
これまでに紹介した「バイスティックの7原則」は、いずれもその根底に「利用者本位」の考え方が位置づけられています。
それゆえに看護師やケアマネジャーなどの対人援助の専門職が、現場においてたいへん困難な対応を求められることも少なくありません。
管理者は理解していても、部下が全員理解しているとは限りません。
誰かに聞くことができる組織風土も大切ですが、そうでない場合はみずから調べ、学ぶことがとても重要です。
初出:「透析ケア」2022年28巻8号より一部改変
白木裕子(しらき・ひろこ)
株式会社フジケア取締役社長
看護師、認定ケアマネジャー
日本ケアマネジメント学会副理事長
次回は「人材育成への活用」についてお話しします。