令和7年度 看護関係予算概算要求資料からの未来予測

看護管理者は日々多くの業務に目配り・気配りが必要です。国の施策や看護界を取り巻く状況、日々の働き方や組織づくりに関連した情報など、看護管理者が知っておきたい最新ニュースをご紹介します。

厚生労働部会看護問題小委員会

2024年9月10日、自民党本部において「厚生労働部会看護問題小委員会」が開催されました。
この会議では、2025年度(令和7年度)の看護に関する予算要求が主な議題でした。

会議では、まず日本看護協会や日本看護連盟を筆頭とする25名の看護関係団体代表者(表1)が、看護の未来に向けての要望を発表しました。
続いて、厚生労働省、文部科学省、こども家庭庁の担当者が、2025年度の看護関係予算について詳細な説明を行いました。
その後、参加した国会議員や各省庁の方々との間で活発な質疑応答が行われ、看護に関するさまざまな課題や展望について議論が交わされました。
会議の締めに、田村憲久委員長は各省庁に、医療現場を支えることには限界があるため、スピード感を持って一丸となって対応するよう強く要望しました。
この発言は、現在の医療現場が直面している課題の緊急性と、迅速な対応の必要性を強調するものでした。 

表1 団体出席者

高原 静子日本看護連盟 会長
近藤 美知子日本看護連盟 幹事長
高橋 弘枝公益社団法人 日本看護協会 会長
吉川 久美子公益社団法人 日本看護協会 常任理事
高田 昌代公益社団法人 日本助産師会 会長
中庭 良枝一般社団法人 日本精神科看護協会 業務執行理事
平原 優美公益財団法人 日本訪問看護財団 常務理事
小川 久貴子公益社団法人 全国助産師教育協議会 副会長
中島 朋子一般社団法人 全国訪問看護事業協会 常務理事
草間 朋子一般社団法人 日本NP教育大学院協議会 会長
近藤 才子全国国立病院看護部長協議会 会長
武村 雪絵国立大学病院看護部長会議 会長
鎌倉  やよい一般社団法人 日本看護系大学協議会 常任理事
水方 智子一般社団法人 日本看護学校協議会 会長
井口 理一般社団法人 全国保健師教育機関協議会 理事
岡田 睦美一般社団法人 日本産業保健師会 会長
五十嵐 千代公益社団法人 日本産業衛生学会産業保健看護部会 会長
小野田 舞一般社団法人 看護系学会等社会保険連合 事務局長
田渕 典子日本看護職副院長連絡協議会 会長
坪田 康佑一般社団法人 日本男性看護師會 代表理事代理
津島 準子認定看護管理者会 副会長
山口 理恵一般社団法人 全国保育園保健師看護師連絡会 会長
洪 愛子一般社団法人 日本私立看護系大学協会 副会長
菱沼 典子一般財団法人 日本看護学教育評価機構 代表理事
河西 あかね全国保健師長会 副会長

看護現場には多くの課題が存在し、各省庁もその解決に向けてさまざまな取り組みを行っていますが、すべての問題に十分に対応できているわけではありません。
しかし、予算概算要求に含まれる項目は、来年度の変化に直接関わることが多いため、看護の未来を予測するうえで非常に重要な資料となります。

看護管理者が注目すべき点

看護管理者の立場からは、予算概算要求が現場にもたらす影響を正確に把握することが重要です。
しかし、日々の業務に追われる看護管理者にとって、詳細な分析を行う時間的余裕はないでしょう。
そこで今回は、看護管理者の皆さんをサポートするため、筆者がとらえた注目すべき変更点をわかりやすく解説します。
とくに、変化を理解するうえで重要となる2024年度予算との比較分析に焦点を当てます。
この分析を通じて、看護界全体の動向や政策の方向性を把握し、自施設の運営や人材育成に活用していただければと考えています。 

今回の予算概算要求の中でも、とくに重要な点として、新設された施策や予算が増額された項目があります。
これらの情報は、看護管理者として今後の戦略を立案するうえで、貴重な指針となることでしょう。
看護の質の向上と看護職の働き方改革の推進に、また、管理業務や意思決定の参考にお役立てください。

今回の予算概算要求で増額/新設された主な項目

▼厚生労働省看護系予算

増額
➀ 在宅領域におけるタスク・シフト/シェア促進事業:3億4300万円(2024年度、1億7700万円。2025年は一部新規) 
特定行為研修の組織定着化支援事業:2億7500万円(2024年度、1億7700万円)
新設
① 地域における特定行為実施体制推進事業:3900万円 
② 地域標準手順書普及等事業:1700万円
③ 医療の効率化に向けた領域別タスク・シフト推進事業:1200万円
④ 看護現場におけるデジタルトランスフォーメーション効果検証事業:2億7900万円
⑤ 地域強化型看護基礎教育カリキュラム調査検証事業:4800万円
⑥ 中堅期看護職員等の就業継続支援事業:2800万円

▼文部科学省関係予算

増額
① 学士課程における看護学教育の質の保証に関する調査研究:1500万円(2024年度、700万円)
  学士課程における看護学実習の充実のための調査研究
  学士課程における看護学教育分野別評価の充実のための調査研究
② 学校における医療的ケア看護職員配置:49億5300万円(2024年度、40億3700万円) 
③ 学校における医療的ケア実施体制の拡充事業:3500万円(2024年度、3200万円)
新設
ポストコロナ時代の医療人材養成拠点形成事業(項目は昨年同様、下記テーマが新設)
① 医療的ケア児支援における指導的立場等の看護師養成:1000万円
② 重症患者に対応できる看護師養成:1000万円

子ども家庭庁予算

※ 子ども家庭庁は、個別施策への予算は掲載されているものだけピックアップしました。
成育基本法等を踏まえた母子保健医療対策の推進事業を225億2300万円として増額されています。(2024年度、126億1000万円)

増額
① 産後ケア事業の体制強化:90億8000万円(2024年度、60億5000万円) 
② 新生児マススクリーニング検査の推進
③ プレコンセプションケアの推進
④ 就学前教育・保育施設整備交付金:393億円+事項要求(2024年度、245億円)
⑤ 子どものための教育・保育給付交付金:1兆6954億円+事項要求(2024年度、1兆6617億円)
⑥ 病児保育事業:2431億円+事項要求(2024年度、2074億円)
新設
① 乳幼児健康診査の推進
② 入院中のこどもへの付添い家族の環境改善
③ 母子保健のデジタル化等の推進
④ 妊産婦のメンタルヘルスに関するネットワーク構築事業
⑤ ドナーミルクに関する調査研究

上記が、今回の予算概算要求において増額や新設された主な項目です。
各省庁の予算は、それぞれ看護職に関わる重要な側面を持っています。

増額/新設された主な項目におけるポイント

文部科学省の予算は、今後の看護教育のあり方に大きな影響を与えるものです。
子ども家庭庁の予算は、産後ケアや病児保育など、看護職の活躍の場を広げる可能性を秘めています。
同時に、看護職自身が働く親として直接的な影響を受ける部分もあります。

しかしながら、看護職の働き方に最も直接的かつ大きな影響を与えるのは、厚生労働省の予算です。
そのため、ここでは厚生労働省の予算に焦点を当てます。
医療デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進と2024年に行われている医師の働き方改革をさらに進展させるため、タスク・シフトやタスク・シェアに関する予算が増加しています。
タスク・シフトという明示的な表現がなくとも、特定行為研修(新設① 地域における特定行為実施体制推進事業/増額② 特定行為研修の組織定着化支援事業)や、新設② 地域標準手順書普及等事業、新設⑤ 地域強化型看護基礎教育カリキュラム調査検証事業 などの項目は、包括指示をより円滑に行うためのものです。
これらの予算配分から、看護師の業務を再定義し、効率的に仕事を進めていく必要性が浮き彫りになっています。
また、2024年度の診療報酬改定で看護補助者(ナースエイド)が優遇されたことからも、看護師が現在行っている業務のうち、他の職種でも実施可能なものは積極的に移行していく必要があると考えられます。

看護現場のDXに関しては、これまでの推進に加えて、その効果検証が求められるようになってきました。
新たな技術やシステムを無計画に導入するのではなく、その効果を適切に測定し、評価することが重要視されています。
効果検証で高い評価を得た取り組みは、今後の医療業界における標準的な実践となる可能性が高いと予想されます。

まとめ

これらの予算の動向は、看護職の業務内容や働き方、さらには患者との関係性にまで広範な影響を及ぼす可能性があります。
看護管理者の皆さんには、これらの変化を十分に理解し、今後の戦略立案や現場運営に活かしていくことが求められるでしょう。

この看護問題小委員会は、私たち看護師の働く環境や待遇に大きな影響を与える可能性のある重要な場です。
ここでの議論や決定事項は、看護の未来を左右する可能性があるため、今後もこのような動きに注目し続けることが重要です。
看護管理者の皆さんにおかれましては、これらの情報を現場の看護師と共有し、より良い医療環境の実現に向けて、ともに考えていくことが求められています。

最後に、これらの変化を前向きに、看護の質を向上させるための新たな機会ととらえていただければ幸いです。
看護職全体で協力し、患者にとって最良のケアを提供できる環境を築いていきましょう。

引用・参考文献

1) 一般社団法人日本男性看護師会HP.厚生労働省令和7年度看護関係予算概算要求(2024年9月17日).https://nursemen.net/kourou/r7mhlw/(2024年11月15日閲覧)
2) 一般社団法人日本男性看護師会HP.子ども家庭庁,令和7年度,看護関係予算概算要求(2024年9月20日)https://nursemen.net/kourou/ r7child/(2024年11月15日閲覧)

坪田康佑(つぼた・こうすけ)

慶應義塾大学看護医療学部卒。Canisius College(米国ニューヨーク州)卒/MBA 取得。無医地区に診療所や訪問看護ステーションを開業し、2019 年全事業売却。国家資格として看護師・保健師・国会議員政策担当秘書など、民間資格ではメディカルコーチ・M&A アドバイザーなどを持つ。
現在は国際医療福祉大学博士課程在籍、看護師図鑑(https://cango.blog/)を運営。

 ▼出典元:Nursing BUSINESS 2025年1月号
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