看護管理者は日々多くの業務に目配り・気配りが必要です。国の施策や看護界を取り巻く状況、日々の働き方や組織づくりに関連した情報など、看護管理者が知っておきたい最新ニュースをご紹介します。
看護師の懲戒案件
本連載では、これまで看護の可能性や未来についてお伝えしてきましたが、今回は、看護のネガティブな側面に焦点を当てていきたいと思います。
近年、看護師による窃盗や暴言・暴力、ハラスメント、さらには交通違反といったニュースをたびたび耳にします。
これらの問題は、看護師個人やその雇用主との間で解決されることが多かったのですが、最近では病院が懲戒処分を病院の公式サイトで公表するようになってきました。
たとえば、秋田大学は2024年10月23日、同大学医学部附属病院の看護師に対する処分2件をプレス発表しました。
一件は、入院患者の個人情報を不正に閲覧し、親族のカルテ情報を身内に漏洩したり、知人のカルテ情報を不正に閲覧してその知人に連絡を取ったという事案です。この看護師は停職処分となりました。
もう一件は、入院患者のクレジットカードを拾った後に、このカードを不正に使用し、一部の購入品を転売したという事案で、この看護師は懲戒解雇となりました1)。
医道審議会保健師助産師看護師分科会看護倫理部会の動きから考える
このような公表は、病院の信用を守るための措置であると同時に、看護師の不正行為が当事者間での問題にとどまらず、社会全体に対して透明性を持たせるための動きでもあります。
被害者に対する保障対応も含め、看護師の犯罪行為に対する社会的な責任が求められる時代になってきました。
そこで、看護師の犯罪に関しての記録である医道審議会保健師助産師看護師分科会看護倫理部会における看護師に対する行政処分の推移を見ていきたいと思います。
看護師の行政処分とは?
看護師の行政処分について考えるとき、資格を自動車運転免許証に置き換えて考えるとわかりやすいかもしれません。
たとえば、交通違反をすると運転免許証が一時停止されたり、最悪の場合は取り消されることがあります。
このように、看護師の国家資格免許も、特定の違反や不正行為によって停止や取り消しとなる可能性があるのです。
具体的には、保健師助産師看護師法の第九条には、いくつかの条件のもとで看護師の免許が交付されないことが定められています。
以下のような場合です。
1.罰金以上の刑罰を受けた場合
2. 看護や助産に関連する業務で不正を行った場合
3. 心身に障害があり、業務を適切に遂行できないと判断された場合
4.麻薬、大麻、あへんに対する中毒がある場合
また、第四十三条から第四十五条には、これらの罰則についての詳しい内容があります。
こうした罰則を決定するのが、年に2回開催される医道審議会保健師助産師看護師分科会看護倫理部会です。
医道審議会
医道審議会は、厚生労働省が設置する審議会であり、医療職全般(医師、歯科医師、保健師、助産師、看護師、理学療法士など)の行政処分に関する答申を行う機関です。
その主な役割は、刑事事件や不正、医療過誤といった問題が発生した医療職への行政処分を審議することです。
具体的な行政処分には、戒告、業務停止、免許の取り消し、名称使用停止などがあり、事案により、免許の取り消し、長期間の業務停止といった処分がくだされます。
医道審議会の審議は、医道審議会令で定められた8つの分科会で行われます。
とくに看護師、保健師、助産師に対する行政処分は、保健師助産師看護師分科会看護倫理部会が担当しています。
この部会では、行政処分や再免許の妥当性について詳細に検討されます。
医道審議会の審議内容は通常非公開ですが、一部公開された議事録からその傾向を読み取ることができます。
一般的に、わいせつ罪などの破廉恥罪や、医療従事者としての職責を軽視するような行為に対しては、とくに厳しい処分が下されることが観察されています。
看護師の行政処分は、医療の信頼性と患者の安全を守るために不可欠な要素です。
看護師一人ひとりが高い倫理観を持ち、自らの行動に責任を持って職務に臨むことが求められています。
自動車の運転と同様、看護師としても適切な行動が厳しく求められるのです。
看護師に対する行政処分の推移
表1は、令和に入ってからの看護師に対する行政処分の推移を示したものです。
医道審議会の審議の開催時期に変動があるため、単純に処分件数を比較することは難しいですが、全体的に処分が少しずつ増加している印象を受けます。
表1 看護師に対する行政処分の推移
開催年月日 | 行政処分 | 行政指導 | 件 数 |
---|---|---|---|
令和元年11月11日 | 23 | 3 | 26 |
令和2年10月5日 | 2 | 0 | 2 |
令和3年1月25日 | 16 | 6 | 22 |
令和4年1月21日 | 13 | 19 | 32 |
令和5年1月12日 | 16 | 8 | 24 |
令和5年11月27日 | 19 | 8 | 27 |
令和6年11月7日 | 24 | 12 | 36 |
保健師助産師看護師に対する行政処分に関する考え方は、2005年(平成 17年)の法改正によって大きく変わりました。
ちなみに、この改正では危険運転致死傷の規定が新たに追加されました。
また、2016(平成28年)の改正においては、診療報酬の不正請求も処分対象として追記されました。
診療報酬の不正請求については、事業所の指定取り消し処分だけでなく、その管理者である看護師の資質と適性が欠けていると判断される場合にも処分が行われます。
2016年(平成 28年)の改正以降、従来の詐欺罪と立証された診療報酬の不正請求以外、この年の改正で新たに追記されたことに関する行政処分が行われた記録は確認できません。
しかし、2024年からは訪問看護ステーションでの診療報酬の過剰請求や不正請求が大きな話題になっています。
現在、不正請求に関連して行政処分を受けた看護職の情報は公表されていませんが、2016年の改正を受けて不正請求に関与した看護職の取り締まりが強化されているのは明らかです。
今後の予測
この流れから考えても、今後、不正請求に関連する行政処分が増加する可能性が高いと予想されます。
看護職の皆さんは、日々の業務において高い倫理観を持ち、適切に職務を遂行することが求められています。
患者の信頼を損なわないためにも、不正行為には断固として対処することが重要です。
行政処分に対する考え方の変化を考えると、現時点では診療報酬請求に関する部分で管理者の責任が明確にされていることがわかります。
しかし、最近では医療機関や看護教育機関においてハラスメントに関する問題が増加しており、これが新たな課題として浮き彫りになっています。
この流れを受けて、保健師助産師看護師に対する行政処分の考え方にも、看護職個人としてではなく看護管理者としての責任に関連する内容が加わる可能性が高いと予測します。
看護管理者としての視点
近年、医療機関の倒産が過去最多の記録を更新し続けています。
この状況はすべての医療機関で働く看護師にも影響を及ぼしています。
とくに、診療報酬の不正請求に無自覚に関与してしまうリスクが高まっていることも懸念されます。
看護管理者として、このような看護師に対する行政処分の背景をあらためて見つめ直すことが求められます。
「自分には関係ない」と他人事のように考えるのではなく、看護倫理を高め、組織全体の意識を促進していくことが重要です。
日々の業務の中で生じる倫理的な葛藤を一つひとつ乗り越えることで、より良い看護の職場を築いていけると信じています。
今後も、自らの職務に誇りと向上心を持って取り組む姿勢が求められます。
看護職としての責任を自覚し、患者のために最善のケアを提供することが、信頼される医療の実現につながるでしょう。
ともに切磋琢磨し、明るい未来を築いていきましょう。
引用・参考文献
1) 秋田大学.本学における懲戒案件について.https://www.akita-u.ac. jp/honbu/event/img/mix4538_01_dl.pdf(2025年1月15日閲覧)
2) 厚生労働省.医道審議会(保健師助産師看護師分科会看護倫理部会).https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-idou_127798.html(2025年1月15日閲覧)
3) 厚生労働省 医道審議会保健師助産師看護師分科会看護倫理部会.保健師助産師看護師に対する行政処分の考え方.https://www.mhlw.go. jp/file/05-Shingikai-10803000-Iseikyoku-Ijika/0000146027. pdf(2025年1月15日閲覧)
4)) 厚生労働省.看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針.https://www.mhlw.go.jp/content/001160932.pdf(2025年1月15日閲覧)

坪田康佑(つぼた・こうすけ)
慶應義塾大学看護医療学部卒。Canisius College(米国ニューヨーク州)卒/MBA 取得。無医地区に診療所や訪問看護ステーションを開業し、2019 年全事業売却。国家資格として看護師・保健師・国会議員政策担当秘書など、民間資格ではメディカルコーチ・M&A アドバイザーなどを持つ。
現在は国際医療福祉大学博士課程在籍、看護師図鑑(https://cango.blog/)を運営。
▼出典元:Nursing BUSINESS 2025年3月号
