Aster Guardians Global Nursing Award(世界看護賞)

看護管理者は日々多くの業務に目配り・気配りが必要です。国の施策や看護界を取り巻く状況、日々の働き方や組織づくりに関連した情報など、看護管理者が知っておきたい最新ニュースをご紹介します。

Aster Guardians Global Nursing Award

看護師として日々現場で奮闘されている皆さんにとって、看護の仕事がどれほど重要で、多岐にわたるかは言わずと知れたことと思います。
患者の健康を守るという使命を担い、時には厳しい状況に直面しながらも、看護師としての役割を果たしています。

しかし、自分たちの仕事が世界的にも評価されることは、なかなか実感する機会がないかもしれません。
そのような中で、「Aster Guardians Global Nursing Award(世界看護賞)」のニュースは、看護の方向性を考える重要な指標となります。

2024年11月28日、Aster DM Healthcareが主催する世界看護賞の受賞者が発表されました。
この賞は、看護師の功績を世界的に称えるもので、一般的な授賞制度を超えた、看護師にとって特別な意味を持つものです。
賞金は25万ドル(3,875万円/1ドル=155円で換算した場合)という、看護分野における世界最高額が用意されています。
看護学会や各種表彰制度は国内外に多くありますが、これほどの規模で看護師の功績を称える賞はほかにありません。
このような機会を通じて、看護師の可能性や重要性が再認識されることでしょう。

毎年、5月12日の「看護の日」(フローレンス・ナイチンゲールの誕生日)に関連して開催されてきたこの賞ですが、2024年は特別に発表日が11月28日に変更されました。
この変更により、新たな注目を集めることになりましたが、看護師の功績やその影響力が評価されることに変わりはありません。

2024年受賞者はフィリピンの Maria Victoria Juanさん

2024年は世界203カ国から、2023年より2万以上多い78,000を超える応募がありました。
その中の栄えある受賞者は、フィリピンのMaria Victoria Juan(マリア・ビクトリア・ファン)さんです。

Juanさんはフィリピン軍において、看護リーダーシップの革新を推進し、初の航空医療避難システムを率先して導入しました。
とくにCOVID-19パンデミック中には、巨大な検査センターを編成して、約50万件の検査を実施するために部隊を動員し、ウイルス制御に大きく貢献しました。
Juanさんの揺るぎない公共サービスおよび災害対応への献身は、看護師の中でも際立ったリーダーシップを示しています。
Juanさんの活動は、国の医療提供に多大な影響を及ぼし、看護師の重要性を再確認させるものとなりました。

その功績はもちろん前述の感染症対策にとどまりません。
環境看護においても、Juanさんはフィリピン陸軍本部で土壌侵食や水質汚染に取り組むための「ベチバーグラス技術」を導入しました。
この技術は、環境保護と持続可能な健康促進の両方を目的に設計されており、とくにマンダウエ市のポンツーンウォータービルボードや、タナイ・リザールでの河川斜面安定化プロジェクトなど、地域においても具体的な成果をあげています。
これらの取り組みは、地域環境の質を守るだけでなく、地域住民の健康改善にも寄与しています。
Juanさんは予防医学に尽力して、看護界における新たな看護師像を確立しました。

Juanさんの活動は、ナイチンゲールが後年、感染症対策や衛生管理に従事していた姿を彷彿とさせます。
ナイチンゲールと同様の大きな看護の視点で、地域医療の質を改善し、持続可能な健康改善の実現を可能にするモデルケースをつくり上げていきました。

Aster DM Healthcare

この賞の主催者であるAster DM Healthcareは、GCC(湾岸協力会議)とインドにおける主要な医療提供者の一つで、2024年12月現在、34の病院、131のクリニック、502の薬局、251のラボおよび患者体験センターを7カ国に展開しています。

6,304床を有する施設で、3万人を超える従業員が毎年およそ2,000万人の患者を治療しています。
MENA(中東・北アフリカ)地域でも最大級かつ最も急成長している企業グループの一つとして、Aster DM Healthcareは全ての医療サービスを包括的に提供しています。
過去36年間、同団体は人々に手の届く質の高い医療サービスを提供することを使命として一貫した活動を続けています。

歴代受賞者

世界看護賞は2022年に創設され、第1回の栄誉は、ケニアのアンナ・カバレ・デュバさんに贈られました。
カバレ・デュバ財団を設立し、女子教育の推進に尽力した功績が高く評価されました。

2023年の受賞者は、糖尿病看護の第一人者である英国のマーガレット・ヘレン・シェパードさんでした。
シェパードさんは、糖尿病患者のケアと教育に革新的なアプローチを導入し、看護の分野に大きな貢献をしてきました。

この賞の特徴は、毎年異なる国、異なる専門分野で活躍する看護師を顕彰することです。
それぞれの年に、看護の多様な側面と、グローバルな課題に挑戦する看護師の卓越した取り組みを称えています。

受賞者の経験を自らの看護観に当てはめる

2024年の受賞者、Juanさんの経験と活躍は、次世代の看護師に新しい視点を提供し、医療機関の方向性や自らの看護キャリアについて考えるうえで非常に有益な示唆を与えてくれています。
筆者自身も、とくに環境看護に関するJuanさんの取り組みを通じて、視野が大いに広がりました。

2025年1月、アメリカではトランプ大統領が就任し、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の第29回締約国会議(COP29)が話題になりました。
この会議では、各国が気候変動への対策について議論を交わしていますが、その中でもとくに注目されているのがCO2削減の目標です。

数年前まで、筆者は医療従事者として気候変動に関わるニュースは他人事と感じていました。
しかし、透析治療によって排出されるCO2の量は、一人当たり年間10.2トンに達し、これは乗用車4台分に相当するという事実を知ったとき、われわれの仕事が持つ環境への影響に驚かされました。

今、看護従事者として私たちができるCO2削減の取り組み、いわゆる「グリーンナース」活動が世界では増加してきています。
今回の環境看護に関する表彰からは、この視点がいかに重要であるかを再認識しました。
日本の医療界では環境看護の取り組みはまだ十分に評価されていないかもしれませんが、国全体がCO2削減に挑戦している中で、医療現場も同様の努力が求められる可能性が高まってくると考えられます。
Juanさんの環境看護としての活動が評価されたことは、看護の新たな可能性を考えるよい機会となるでしょう。

まとめ

今回のトピックから世界看護賞に興味を持たれた方にはぜひ、2025年の同賞への応募を検討していただきたいと思います。
フローレンス・ナイチンゲール記章の受章者を国別にみると、日本人は世界で一番多いそうですが、世界看護賞の受賞者はまだいません。
応募はすでに始まっていますので、詳しい情報は世界看護賞のホームページをご覧ください。

私たち看護師自身も、日々の業務の中で「自分にできること」を少しずつ積み重ねることが大切です。
時には自分の可能性に疑問を抱くこともあるかもしれませんが、Juanさんのように、自分の役割を大切にし、日常的な努力が大きな成果につながることを信じて、着実に前に進んでいきましょう。

Juanさんの受賞が、多くの看護師にその可能性を気づかせ、挑戦するきっかけとなることを願っています。
どんな小さな努力も、大きな変化をもたらす力を秘めています。 
今回の締めに、皆さんへエールを送ります。
どんなに小さな取り組みでも、必ず誰かの役に立っています。
一緒に、地域や社会に貢献できる看護師を目指して、前に進んでいきましょう!
あなたの挑戦を心から応援しています。

引用・参考文献

1) Aster Guardiansホームページ.https://www.asterguardians.com/(2025年1月27日閲覧)
2) AsterGuardians,Maria Juan.https://youtu.be/9MBGKqFNJ 2s?si=R_yxzvpK3GKqQiJw(2025年1月27日閲覧)

坪田康佑(つぼた・こうすけ)

慶應義塾大学看護医療学部卒。Canisius College(米国ニューヨーク州)卒/MBA 取得。無医地区に診療所や訪問看護ステーションを開業し、2019 年全事業売却。国家資格として看護師・保健師・国会議員政策担当秘書など、民間資格ではメディカルコーチ・M&A アドバイザーなどを持つ。
現在は国際医療福祉大学博士課程在籍、看護師図鑑(https://cango.blog/)を運営。

 ▼出典元:Nursing BUSINESS 2025年4月号
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