先生ご自身に変化はありましたか?また、その中で新たに気づかれたようなことはあるでしょうか?
生活が変わりました。今もほとんど大学に行かず、学生にも会えません。
振り返れば看護学校を卒業後、ずっと外で働いてきて、そのために自分のルーチンを作ってきていました。長期間続けて家にいたことなどなかったのが、急に毎日家で仕事をすることになって、24時間をどう使うか、仕事中の服装をどうするかといったことにも最初は戸惑いました。家族との距離の取り方もストレスで(笑)。今では家の中でのディスタンスをとることに慣れてきましたけれど。
かつて埼玉大学経済学研究科で学んだとき、人間は自分の中に「ルーチン」を作り、行動するものだと知りました。今の日常でそのルーチンはどうなるのだろうと考えています。早く元のように戻りたい、元のように人と会いたいという思いがあるけれど、元通りには戻れず、新たなルーチンができていくのだろうと考えています。
学生への授業もリモートで行い、看護系の学会も今ではどんどんリモート開催が増えています。看護現場の方々は働く場所は変わらなくても学びに行く場所や方法が変わるし、これまで来日してもらわないと聞けなかったような海外の方の講義を家にいながらにして気軽に受講することもできるようになった。「私は変わらないわ」という人はほとんどいなくて、何かが必ず変わっていく。これから先、次の新しいルーチンをどのように獲得していくのか。そういうことに私は今、不安ではなく、とてもワクワクしています。人それぞれの新しいルーチンが影響しあって、また個人の新しいルーチンをつくっていくのではないか。それが興味深いし、楽しみです。
看護の現場への影響はどのようにお考えですか?
今、看護部長さんたちに話を聞くと、私が大変だろうなと思っていることでも、「それなりにやっていますよ」と、自信に満ちていると感じます。それはどうしてかと考えると、看護というものが埋め込まれていて、学び続けてきている、それによって根底が揺らぐことがなかったからだと思っています。
看護部長さんたちとの会話には「ナース魂」という言葉がよく出てきます。看護の姿勢について、常日頃からとても考えている。それがあるから、コロナが拡大し始めた最初は、「大変、何とかして!」と落ち込んでいたとしても、自分たちがすべき仕事は何かを考えて立ち直るのも早かったのだと思います。例えば、物品が足りないところでどうするのか、という中でも何とか工夫し、やりくりしてきて自信がついたのではないかなと。
仕事を辞めていたナースにも、今回、復帰した人がたくさんいる。それはその人の根底に、看護という魂が埋め込まれているからこそと思います。
もう一度、看護の原点に帰る。それをこの危機的な状況の中で、周囲の医療者の働く姿も見るなかで、それぞれが感じたのではないでしょうか。
看護管理者の方々は、これからどのように考えていったらよいでしょうか?
収束はまだですが、コロナの拡大から今までをぜひ振り返り、そのなかで心に引っかかっていることや気になっていること、自分に何が起こったか、何を考えたかを表出して共有してほしいですね。思ったことを言い合う機会を設けて、形にして次代に引き継いでほしいと思います。また、それによってナース魂として埋め込まれているものをまた引っ張り上げて気づけることがあって、それがこれからの危機を乗り越えていける支えにもなると思うのです。
それから、自分のコントロールもぜひ大切にしてほしい。ものすごくがんばってやってきた管理者であるあなたの心は、自分が気づかないくらいのストレスを受けていると思います。今はまだ乗り越えてすぐ、興奮さめやらない状況かもしれませんが、落ち着いてきたときに必ず自分を見つめなおしてください。その次のステップとして、やることが出てくると思います。
コロナの影響下で、私も今までの働きづめの自分は何だったのか、仕事をとったときに自分に何があるのかと考えました。仕事以外に、自分を支えるものをぜひ持っていてほしいですね。私の場合は、花の写真を撮ることとゴルフです!
[聞き手]メディカ出版 臨床教育ソリューション部門 粟本 安津子
坂本 すが
東京医療保健大学 副学長
▼出典元 メディカファン2020年10月 あなたへのエール ~看護管理者として新型コロナウイルスとどう向き合うか~ 振り返る時間と新しいルーチン
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