スタッフだけでなく管理者も守られるべき存在
◇松尾 純子(飯塚病院 臨床心理室)

3月。昨年の今頃は、みなさまはどうお過ごしでしたか。当時は、グローブや防護服すらなく1週間同じマスクを使い、最前線の現場のスタッフを励ましておられたことと思います。現場での試行錯誤を経ながら、今日まで支えてこられたことと存じます。

支援者支援に関わる心理職から見たこの1年
 今回のパンデミックはCBRNE(chemical,biological,radiological,nuclear,high-yieldexplosivers)の特殊災害。当院でも惨事ストレスと捉え新型コロナ感染対策本部の宣言により、2020年3月、産業医・臨床心理室・人事課協働でメンタルヘルスサポートチームを結成しました。個人が自身を守るセルフケアと組織・管理者がスタッフを守るラインケアをセットで行い、スタッフも管理者も一人にしないためです。専用窓口の開設と20部署以上の事前知識説明、健康調査実施や個別・部署相談に奔走し、必要に応じ専門科につなぎました。人の恐怖と混乱は、見えないこと、わからないことで増幅するため災害初期には怒りが前面に立ちますが、特に医療従事者は未知のものに立ち向かう緊張感、感染や死への不安と、人を守る立場でありながら診療を介して感染拡大に関与してしまって自らが加害者になるのではないかという恐怖を抱えています。

つながりを確かめ、支えに
 初期症例の振り返りカンファレンスでのコメントのご依頼もいただきましたが、むしろその時間で管理者からの率直な思いをスタッフに伝えてくださるようご提案しました。平時のメンタルヘルスサポートから、スタッフは状況の改善のみを求めているのではなく、よりエモーショナルなサポートを求めていることを感じており、その当時も現場のスタッフから「管理者がわざわざ足を運んでくれた」という声が届いていたからです。支援者支援は組織のトップからのあたたかく強いメッセージの宣言から始まりますが、スタッフからは管理者の奔走する姿が見えているとは限りません。管理者から直接、立場の理解、労い、感謝が繰り返し発せられることで組織とのつながりを確かめ、救われるスタッフがいます。それはおそらく管理者のみなさまの想像を超えて、強く求められているのだと思います。

 職業柄、全国から周産期や救急における家族ケア・スタッフケアについてのお話の機会をいただくため、可能な限り事前にスタッフから困りごとや今の思いを書き出していただき管理者に見ていただくと必ず、「普段みんながこんなことを感じて、ここまで考えているなんて」と驚かれます。スタッフにとって師長・管理師長は尊敬する遠い存在。心理士にならつぶやいてみようと思うのかもしれません。

 惨事の際は特に管理者は現場を思うあまり、「心のプロのケアを届けたい」と考えられるようですが、それも土台に管理者のあたたかいエールがあってこそ。みなさんのスタッフは、みなさんの指導の下で、既に想像以上に育っていると信じてくださって大丈夫と感じています。

 一方、バランスが難しい信頼もあります。第一波の後、ようやく再会したある管理者に声をかけた途端、目に光るものがあり、どんなに孤独と闘い笑顔でスタッフを支えてきたことかと、こころが痛みました。メンタルヘルスサポートはまず現場を支える管理者に厚くする必要がありますが、平時から信頼厚く定評のある管理者に対しても、「これで十分」ということはないと内省しています。 惨事に限らず組織全体にストレスがかかる場
合、今何が起きているか、これから起きる何が想定されるかを適切に開示し、目的や方向性、課題や進捗を示し、事前の職務遂行基盤(スキル・知識・安全)を確保することは先決です。スタッフの安全安心の確保で精一杯な中でも、管理者のみなさんもまた、守られるべき存在であることを感じられるような現場に…と思っています。

今日まで、そしてこれから 
 ストレスは自然災害のように一時点の強いインパクトより、弱く長く持続する方がよりダメージを受けるため、今後も繰り返す感染の波にこころも揺れ動くでしょう。管理者のみなさまは役割として時に現場を鼓舞しなければならない時があり、スタッフを安心させる笑顔を絶やさないことは容易ではないと思います。でもそれとは別に、時には少々弱みを見せる管理者にスタッフは親しみを持つようです。また、心配され過ぎると反射的に大丈夫です」と答えてしまうようで、現場からはただ承認(よくやってるね。ありがとう。これでいいよ)を望む声もあります。

 エモーショナルなサポートは親が子に愛情を示すように、もっとシンプルなことでよいのかもしれません。そして管理者のみなさまご自身も必ず、どこかでエネルギーを補充していただけますようにと願っています。

松尾 純子

飯塚病院臨床心理室
臨床心理士/公認心理師

▼出典元 メディカファン2021年3月 あなたへのエール
~看護管理者として新型コロナウイルスとどう向き合うか~
スタッフだけでなく管理者も守られるべき存在
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