慢性疲労を自覚する人が増加
COVID-19の問題により、疲労を抱えながら生活を送る人々(疲労負債を抱えている人)の数は増加し、社会の慢性疲労が拡大し、プレゼンティズム(健康の問題を抱えつつも仕事を行っている状態)という問題がいっそう危惧されています。強いストレス状況で働いておられる皆さまの環境では切実な問題ではないかと思います。
厚生省疲労調査研究班は、1999年に就労者の6割が疲労を自覚していると報告しています。私が所属する一般社団法人日本リカバリー協会は、20年後の2019年に実施した10万人規模の調査から、その割合は増加し、7割強が疲労を自覚していることを明らかにしています。世の中の変化や加速化が今後ますます進む中で、この割合の増加も予想されています。
オーバートレーニング症候群に陥っていませんか?
競技スポーツにおいての「コンディショニング」とは、最大の能力を発揮できるように精神面・肉体面の状態を整えコントロールしていくことを指します。正しい生活習慣を送ることが最良のコンディショニングといえますが、どうしてもそれが適わないときに、科学や経験などによってどのようにカバーしていくのかを追求していく知恵のことをいいます。
トレーニング理論の一つに「フィットネス疲労理論」があります。これは、自分自身の最大能力を10としたとき、その時点の疲労が2であった場合、発揮できる活動能力(活力)は8になるというものです。活力を無視して10のトレーニングや活動を継続すると「オーバートレーニング症候群」に陥ってしまいます。トレーニングは、技術や体力の向上には不可欠です。しかし、過剰なトレーニングや疲労回復が十分でない状態での度重なるトレーニングは、むしろパフォーマンスダウンにつながり、さらには怪我や事故の発生にもつながりかねない危険性があります。だからこそ、意図的にコンディショニングを行う必要があるのです。スポーツでなくても、日々の仕事を少しずつ無理をしながらやりくりしているうちに、このような状況に陥っているかもしれません。
リジェネレーションサイクルで活力の貯金を!
我々の生活は、活動(仕事)→疲労→休養というサイクルで廻っています。しかし、疲労負債を抱えている人は、このサイクルを見つめなおすことが迫られています。疲労負債に対する課題解決のヒントとして、休養の学問体系化を目指した書籍『休養学基礎』では、疲労負債の負のスパイラル対策として、活力(活動能力)→活動→疲労→休養という「リジェネレーションサイクル」を提唱しました。これは例えると、活力を貯金し、この貯金を使って活動し、また休養でしっかりと貯金するという考え方です。
これまでの、活動→疲労→休養サイクルは、疲労負債に追い回される自転車操業的なサイクルでした。一方、リジェネレーションサイクルは、自分自身の活力と対峙し、セルフケア、セルフマネジメントするというものです。活力の貯金にもさまざまな貯蓄方法があります。『休養学基礎』で提唱された休養の7タイプには、「休息型」「運動型」「栄養型」という生理的休養、「親交型」「娯楽型」「造形・想像型」という心理的休養、「転換型」という社会的休養が示され、具体的な休養を複合的にとる方法が提言されています(図)。
休養には、仕事や活動によって生じた心身の疲労を回復し、元の活力ある状態にもどす「休むこと」、明日に向かって鋭気を養い、身体的、精神的、社会的な健康能力を高める「養うこと」の二つの側面があるとされています。
高いパフォーマンスを常に求められる医療従事者は、高いパフォーマンスを発揮することを目指すトップアスリートと同様に、「休養」に焦点をあてて自分自身のセルフケアやセルフマネジメントを考えることにより、困難な状況を乗り切るために最も効果的な方法を編み出すことができるのではないでしょうか。
片野 秀樹
⼀般社団法⼈⽇本リカバリー協会
⽇本体育⼤学 研究員、博士(医学)
▼出典元 メディカファン2021年12月 あなたへのエール ~看護管理者として新型コロナウイルスとどう向き合うか~ 活力と向き合うセルフマネジメントのすすめ
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