苦労のなかだからこそ成長した自分を褒めよう!
◇福井 トシ子(公益財団法人 日本看護協会会長)

 いまだに続くコロナ禍において、最前線で活躍する看護職の方々には改めて感謝を申し上げます。自分たちの置かれている状況も踏まえながら、看護職が良い形で患者さんにケアを提供できるように、良い環境を作っていこうとしてくれている看護管理者の皆さんには、頭が下がります。この状況下で、限られた人的資源を有効に配置することも含め、四苦八苦されてきた看護管理者の方々を誰が支えるのかということも非常に大きな問題だったと思います。そんな皆さんがネットワークを作ったり、自分たちをどう奮い立たせるかという場を作ったりされているということを見たり聞いたりしました。日本看護協会では、オンラインでの相談、メンタルケアの支援などさまざまな相談事業を行っていますが、看護管理者の苦悩や対応なども、たくさん寄せられています。

●改めて、気持ちを表すことと、ネットワークの大切さを実感
 なかなか終わらないコロナ禍のこの状況をどう乗り越えていくか、まずは危機的状況にあるときに自分の言葉で表現できることがとても大切だと思っています。理路整然と話す必要はなくて、今思っていることをそのまま表現し、そのことを誰からも否定されることなく、そういう状況だよねということを共有してもらえることがとても大切だなと。  
 危機的な状況では特に言語化することと、お互いが支え合うことが大事ですが、それは普段から管理者同士の交流や、病院全体で看護部門のみならず他部門との交流も行われていることでこそ培われ、有事を乗り越えていく力になっているということを、現場での実際を見たり聞いたりして改めて感じています。  
 コロナ前から地域で看護管理者のネットワークを作っておられたところでは、各病院の看護管理者と常に交流を持っていて、コロナ禍では、お互いに意見を出し合い、取り入れられる工夫は取り入れて支え合っているということを各地で伺いました。地域包括ケアシステムを作っていくために看護管理者のネットワークは欠かせません。小さなグループであっても普段からそのための活動を進めてきていたところは、コロナ禍で応用ができたのだと思います。

●非常時だからこそ身に付いた力がある  
 日本看護協会としては国民へのメッセージとして、「感染しない感染させない」を合言葉に看護職を支えてほしいとずっとお願いしてきました。また、新型コロナウイルスの経験から、感染症などについて医療機関にいる人たちだけでなく、地域住民も啓発の対象であるということが明らかになったと思います。その地域住民に対してどういうケアが必要なのかを考える良い機会をもらったと思えば、実はポジティブな話としても受け止められるのではないかとも思っています。健康に対する価値について地域住民に考えていただく機会になったとも思います。
 新型コロナウイルスのフェーズによって国民の反応も違ってきましたね。最初は看護職への差別や誹謗中傷などもあり、看護職の置かれている状況への理解が進まず、悲劇的だったことは否定できない状況だったと思います。ですが新型コロナウイルスへの理解や対応が進むようになると医療機関、特に看護職の存在意義について大きな光が当たった。こういう時になってみないと看護職が社会インフラの鍵を握っているということを、なかなか理解されないものだということを改めて感じ、それを逆にチャンスに変えようと思いました。看護の価値は、不変です。
 また、精神科医で作家の帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)さんが『ネガティブ・ケイパビリティ』という本を書いています。ネガティブ・ケイパビリティとは、出口の見えない状況に耐える力です。コロナ禍がまだ終わらない、いつ収束するんだろうと待ちに待っている状況下で私たちは さまざまな経験を積み重ねながら対応能力を上げてきました。その対応能力は通常では考えられないほどの力だと思います。みなさんは新たなことに挑戦しながら、さまざまなことに気配りしながら、マネジメントを行ってきた。通常の看護の状況を超える世界に入って、状況を変える力をあらたに獲得したと思います。そのように培ってきた耐える力が、さらに次の看護管理に生かしていける力になると感じています。
 否応なくではありますが、新たに身に着けてこられたみなさんの新しい力によって、また次を目指していける自分たちになっていることを自負するとともに、成長した自分をぜひ褒めて欲しいと思います。

福井トシ子

公益財団法人日本看護協会
会長

▼出典元 メディカファン2023年2月 あなたへのエール
~看護管理者として新型コロナウイルスとどう向き合うか~
苦労のなかだからこそ成長した自分を褒めよう!
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