長く耐えてきた医療者にもやっとトンネルの出口が見えてきた
◇矢野邦夫(浜松市感染症対策調整監/浜松医療センター感染症管理特別顧問)

●新型コロナウイルス感染者の初入院
 2020年2月、「明日、感染者を搬送するのでよろしく!」と県庁から連絡があった。横浜港のクルーズ船の新型コロナウイルス感染者の受け入れ依頼であった。搬送の当日、県庁からの連絡を確実に受けるために、朝6時頃から院内で待機し、連絡を待った。結局、患者が当院に搬送されたのは、翌日の午前2時頃であった。横浜から浜松までの搬送なので、時間がかかったのだ。感染者はとても疲れていて、診察どころではなかった。そのため、睡眠をとってもらってからの診察とした。

●メンタルの状況
 この日から浜松医療センターでは新型コロナウイルス感染者の診療がはじまった。当初はワクチンもなく、抗ウイルス薬もなく、そして、治療方針すら明確でなかったことから、診療への不安が大きかった。現在は重症化率が低下しているが、その頃は中国での悲惨な報道が怒涛の如く流入してきたため、とてもとても心配であった。患者の診療によって、自分が感染して重症化するかもしれない。そして、自宅で家族にウイルスを感染させるかもしれない。そうすれば、差別されるかもしれないなどの不安が頭をよぎった。
 そのような不安は私だけではなかった。今でも忘れないことは、これから感染症病棟に勤務するために廊下を歩いていた看護師の顔が青かったことだ。おそらく、彼らからすれば私の顔も青かったのだろう。

●白衣の天使
 看護師のケア業務では患者に濃厚接触することが多い。それは感染の機会を増大させるような状況での業務ということだ。それにもかかわらず、彼らは懸命に患者を看護していた。その姿をみて、「白衣の天使」という言葉を思い出した。「白衣の天使」はクリミア戦争で敵味方分け隔てることなく負傷兵たちを懸命に看護したフローレンス・ナイチンゲールの姿から生まれた。新型コロナウイルスに感染しているということで、看護を拒否することなく、必死に患者をケアしている姿と重複したのだ。つい先ほど、廊下ですれ違ったときに青ざめた顔をしていた看護師が、必死に患者をケアする姿ほど美しいものはなかった。これまでで最も美しいものを見た!

●行動制限
 新型コロナウイルスの流行により、医療従事者の行動は大きく制限された。一般企業の従業員と比較しても、医療従事者の行動制限は大きかった。一般企業での制限が緩和された頃であっても、友人との食事の人数制限や県外への移動禁止など、行動制限はかなり残った。これは高齢者や免疫不全者のように、新型コロナウイルスに感染した場合に重症化しやすい人々が数多く入院している病院だからこそ、やむを得ないことかもしれない。しかし、大きなストレスのなかで、長時間の勤務をしたあとには、息抜きをしたい。友だちと苦労話をしたい。それができなかったことは彼らのメンタルにダメージを与えた。そのような状況にも耐え忍び、今日まで頑張ってきた医療従事者には感謝したい。

●5類感染症になったら
 新型コロナウイルス感染症が5類感染症になったら、どうなるのであろうか? おそらく、学校や企業などでは「With コロナ」ということで、マスクの着用は必要なくなるであろう。そして、勤務後には友人とビアガーデンなどにいって気晴らしができるかもしれない。 
 しかし、医療従事者ではそれは難しいであろう。入院患者を守るということで、院内でのマスクの常時着用や宴会の人数制限など、ある程度の制限が課せられると思う。これまでのような大きなストレスは軽減されるであろうが、コロナ前のようにはならない。しかし、新型コロナウイルスが本当の風邪コロナウイルスとなる日は必ずやってくる。その日は近い。もう少しだ!その日まで頑張ってほしい。

●過剰な感染対策から標準予防策へ
 コロナ禍では「病院玄関での体温測定」「面会禁止」「入院時のコロナ検査」「新型コロナウイルス感染者のケアでのガウン着用」など、過剰といってもよい感染対策が実施されてきた。このような感染対策は見直すべきである。しかし、多くの患者の死亡や重症化を経験したことがトラウマとなり、なかなか一歩進めないのが現状である。最終的には新型コロナウイルス感染症に対しても、標準予防策が適用される日が必ず来るであろう。そのとき、「コロナ禍が真に終わった」といえるかもしれない。

●最後に
 新型コロナウイルスは看護師に大きな試練を与えた。体力的にも精神的にも苦しかった。彼らを支え、また、彼らの実力を最大限に引き出すことがコロナとの戦いには不可欠であり、そのために看護管理者は大変な苦労を重ねてきた。コロナ禍の暗いトンネルの出口が見えてきた。もうひと踏ん張りだ。頑張ろう。あと少しだ!

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問

矢野邦夫先生に緊急インタビュー
「新型コロナウイルス5類移行に向けて看護管理者が押さえておきたいこと」
①医療現場で変化する医療提供体制、補助金、診療報酬、ワクチンなど、②看護管理者が押さえておきたいポイント、などについてわかりやすくお答えいただきました。

◆インタビュー動画配信中!「看護トップリーダーサロン」
詳しくはこちら
◆インタビュー記事掲載決定!「ナーシングビジネス」6号(5月中旬発売)巻頭カラーページに矢野先生ご登場
ご購入はこちら

◆月イチゼミ7月にもご登壇! 臨床看護のeラーニング CandY Link

▼出典元 メディカファン2023年4月 あなたへのエール
~医師として新型コロナウイルスとどう向き合うか~
長く耐えてきた医療者にもやっとトンネルの出口が見えてきた
▼臨床看護のeラーニング CandsY Link トップページ
https://clpr.medica.co.jp/
▼Nursing BUSINESS(ナーシングビジネス)トップページ
https://store.medica.co.jp/journal/21.html
▼看護トップリーダーサロン トップページ 
https://tlsalon-medica.com/
Scroll to Top