統制された情緒的関与の原則

第4回 統制された情緒的関与の原則(バイスティックの7原則)

「統制された情緒的関与」とは

「統制された情緒的関与」とは、援助者が自身の「急激な心の動き(怒りや不安などの感情)」を「統制(コントロール)」してクライアント(利用者)にかかわっていくことを指します。

「統制された情緒的関与」を分解して整理すると、「統制」とは「多くの物事を一つにまとめておさめること」ですが、「コントロール」と英訳されることから、こちらの言葉のほうがイメージしやすいと思います。
一方、「情緒」とは「喜び、悲しみ、怒り、恐怖、不安のような一時的で急激な心の動き」を指します。

援助者が、クライアントの気持ちや感情をよく理解することは必要ですが、表出される悲しみや怒り、不安などの感情にひき込まれて同じような感情をひき起こしてしまっては、適切な支援を行うことができません。
そのため、援助者は自分自身の感情をコントロールし、つねに冷静に利用者の話を聞くことができる心の状態を維持する必要があります。

自分の感情を冷静に自覚する

医療・介護の対人支援専門職のなかでも、ケアマネジャーは利用者の生活歴や価値観なども踏まえて長期に支援を行うため、つい感情移入をしてしまい、家族や親せきのような感覚で利用者の生活に入りすぎてしまうことがあります。
しかし実際には、利用者や家族の言動に対して私的な感情をもつことなく、自分がプロフェッショナルであることを冷静に自覚し続ける必要があります。

また、自分とは異なる価値観や相容れない考え方をもつ利用者に対し、批判的な態度や嫌悪感などをあらわにすると、それが原因で利用者や家族との関係が悪化してしまうこともあります。

自分自身のふり返りが重要

例えば、援助者自身は「家族だから、助け合うのは当然」と思っていても、その価値観を利用者や家族に押しつけるのは適切ではありません。
対人支援の専門職は、利用者や家族の言動に対して、自身の価値観をとおして善し悪しの判断を行ってはならず、実際に起きた出来事や状態は事実としてのみとらえ、その対応については専門職の見地から客観的に行うことが重要です。

医療や介護の現場は、ストレスの多い職場だと思います。
そのため、多忙な日々のなかでストレスが溜まってくると、頭ではコントロールしようと思っていても、自身の感情が患者さんや利用者の言動にふり回されてしまいがちになります。
そうならないためにも、医療や介護の専門職は、自分自身を知ることが大切であり、自分でふだんの業務に対するふり返りを行う必要があるのです。

初出:「透析ケア」2022年28巻4号より一部改変

白木裕子(しらき・ひろこ)
株式会社フジケア取締役社長
看護師、認定ケアマネジャー
日本ケアマネジメント学会副理事長

次回は「受容の原則」についてお話しします。


第3回 意図的な感情表現の原則

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