「令和6年版厚生労働白書」より

看護管理者は日々多くの業務に目配り・気配りが必要です。国の施策や看護界を取り巻く状況、日々の働き方や組織づくりに関連した情報など、看護管理者が知っておきたい最新ニュースをご紹介します。

2001 年から毎年公表

厚生労働省は2024年8月27日、閣議に報告した「令和6年版厚生労働白書」(令和5年度厚生労働行政年次報告)を公表しました。
厚生労働白書は、厚生労働行政の現状や今後の見通しを広く国民に伝えることを目的に、2001年から毎年公表されています。

看護師の働き方に最も影響を与える省庁である厚生労働省の動向は、看護管理者にとって重要ですので、時間があれば白書を確認することをお勧めします。
今回は筆者の視点から、看護管理者の皆さんがとくに注目すべきポイントを取り上げます。

誰もが心身ともに健やかに暮らせる社会

今回の厚生労働白書のテーマは「こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会に」です。
第一部はこのテーマを掘り下げ、172ページにわたって構成されており、第二部では厚生労働省の各施策が281ページにまとめられています。
誰もが心身ともに健康に暮らすことのできる社会の実現を目指す中で、精神疾患の患者数が増加する一方で、社会的受け入れが未熟な現状を掘り下げています。

ナイチンゲールは看護界では統計家や著述家、起業家としても知られていますが、一般的には「ランプの貴婦人」として人に寄り添い、孤独を癒したことが有名です。
彼女ならどのようにこのテーマを発信するのか、考えさせられる内容です。

孤独に対する策

2021年、日本はイギリスに続いて「孤独・孤立担当大臣」(2024年10月1日より、共生・共助担当大臣)を創設しました。
国際的には、日本は孤立する人の比率が高い国と見られています。
2005年のOECD(経済協力開発機構)調査によれば、日本では「友人・同僚・その他の人」など家族以外の人との交流が「まったくない」あるいは「ほとんどない」と回答した人の割合が15% に上り、20カ国の中で最も高い比率です。

孤独は1日15本の喫煙以上の健康リスクがあるともいわれています。
コロナ禍を通じて、看護管理職は新人看護師や患者が感じる孤独対策に取り組んできましたが、これは一時的なものではなく、今後も引き続き対応を意識していく必要があるでしょう。

外国人看護師の受け入れ

第二部について、「看護」がタイトルに含まれているのは、外国人看護師の受け入れに関する項目のみです。
本文中で「看護」が言及されているのは、上記以外では、①災害時の看護職員の派遣 ②災害医療提供体制 ③看護職員の確保に関する内容です。

外国人看護職の受け入れに関する事業では、円安の影響で日本で働くメリットが低下し、希望する外国人看護職の数が減少しているという課題についてはとくに触れられていませんでした。
日本では年間約86万人の日本人が減少し、外国人は約33万人増加しています。
この状況を考えると、医療従事者に多言語対応を求める施策と同様に、外国人医療従事者の活躍の場を創ることも重要ですが、これについても触れられていませんでした。
ちなみに、現在、日本に住んでいる外国人の数は約332万人で、大阪市の人口277万人より多いです。

災害時の医療提供体制

前述の①災害時の看護職員の派遣と②災害医療提供体制に関しては、2024年1月に発生した令和6年能登半島地震の災害対策を中心に書かれています。
南海トラフ地震の警告が出されるなど、いつ災害が起きてもおかしくない現状ですので、看護管理職はこの報告書を参考に、自身の職場でどのように対応すべきかを考える必要があるかもしれません。

看護職員の確保

また、前述の③看護職員の確保については、6年間の医療体制を計画する第八次医療計画が2024年から開始されたことに関連し、医療計画による推進が取り上げられています。
各都道府県の医療計画によりますが、18歳人口の減少により看護師の数の確保が難しくなっていることが改めて指摘されており、採用人事計画を抜本的に見直す必要があることを考えさせられました。

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今回の厚生労働白書は、こころの健康と社会の持続可能性に焦点を当てており、看護管理者にとって重要な示唆を含んでいます。
とくに、孤独・孤立の問題、災害対策、そして看護職員の確保という課題は、今後の看護管理において中心的な役割を果たすでしょう。
18歳人口の減少や外国人労働者の増加といった社会変化を踏まえ、看護管理者は従来の枠組みにとらわれない柔軟な人材確保・育成戦略を考える必要があります。
また、災害への備えや、スタッフや患者のメンタルヘルスケアにも一層の注意を払うべきでしょう。
白書の内容を自施設の状況に照らし合わせ、具体的な行動計画を立てることが、これからの看護管理者に求められる重要な役割といえるでしょう。

引用・参考文献

1) 厚生労働省HP.「令和6 年版厚生労働白書」を公表します.https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_42715.html(2024年10月1日閲覧)
2) 厚生労働省.令和6 年版厚生労働白書.https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/23/dl/zentai.pdf(2024年10月1日閲覧)

坪田康佑(つぼた・こうすけ)

慶應義塾大学看護医療学部卒。Canisius College(米国ニューヨーク州)卒/MBA 取得。無医地区に診療所や訪問看護ステーションを開業し、2019 年全事業売却。国家資格として看護師・保健師・国会議員政策担当秘書など、民間資格ではメディカルコーチ・M&A アドバイザーなどを持つ。
現在は国際医療福祉大学博士課程在籍、看護師図鑑(https://cango.blog/)を運営。

▼出典元:Nursing BUSINESS 2024年12月号
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