スポーツマネジメントから学ぶ!
チームを機能させるためのマネジメント力アップ講座_第7回
スポーツチームと医療看護組織には共通点があります。
リーダーシップやモチベーション、チーム作り、次世代の育成など、看護の明日をより輝かせるためのヒントをお届けします。
もめごとにどう向き合うか?
スポーツチームでは、ポジションを巡る競争や価値観や考え方の違いによる対立、摩擦が日常的に生じます。
これを単なる「衝突」と捉えるか、「成長の機会」と捉えるかで、監督の力量は大きく分かれます。
すなわち、もめごとをどう乗り越えるかによって、チームは弱体化することもあれば、逆に結束を強め成長することもあるのです。
看護の現場も同様です。看護組織では、多様な専門職と協働し、患者や家族と関わりながら業務を進めています。
そのため意見の違いや価値観の衝突は避けられず、時に「もめごと」として顕在化します。
たとえば、勤務表や業務の進め方をめぐる不満、医師との認識のずれ、新人とベテランの医療ケアに対する価値観の違いなどがあげられます。
看護管理者にとって、こうしたコンフリクト(conflict)を放置すれば職場の雰囲気は悪化し、チームの力が低下するだけでなく、最終的には患者ケアの質にも影響が及びます。
一方で、適切に対応すれば、組織の成長やメンバーの学びにつながる契機ともなりえます。
本稿では、学術的な視点からコンフリクトを整理し、看護管理者に求められるコンフリクト・マネジメントの考え方と実践の要点を考えます。
コンフリクトの3つのタイプ
コンフリクトとは「利害・価値観・目標の不一致によって生じる緊張状態や対立」と定義されます。
これは個人内、個人間、組織内(集団間)、組織間など、あらゆるレベルで不可避的に発生します。
たとえば、仕事と家庭の両立をめぐる葛藤は「ワーク・ファミリー・コンフリクト」として理解されています。
組織行動論の分野では、職場で生じるコンフリクトは次の3種類に区分されます。
皆さんは日ごろどのようなコンフリクトを感じることが多いでしょうか?
そのコンフリクトに、どのように対処しているでしょうか?
コンフリクトの種類 | 具体的内容(焦点) |
---|---|
タスク・コンフリクト (task conflict) | 業務内容や方向性・方法に関する意見の違い 「何をやるか(業務内容)」 |
プロセス・コンフリクト (process conflict) | 役割分担や手続きの進め方に関する対立 「誰がどうやるか(業務の手順・役割)」 |
人間関係コンフリクト (relationship conflict) | 性格や態度、感情に基づく衝突 「好き嫌い・不信感・怒りなど(感情)」 |
研究によれば、「タスク・コンフリクト」と「プロセス・コンフリクト」は、適切に対処すれば意思決定の質の向上や業務効率の改善につながる可能性があります。
たとえば、患者ケアの方針をめぐる意見の対立が、より安全で効率的な手順の確立や合理的な仕組みづくりにつながることがあります。
このように、異なる視点の議論が新しいアイデアや改善策を生み出し、組織の活性化を促すことが示されています。
一方で、「人間関係コンフリクト」はパフォーマンス低下に直結することが知られており、「百害あって一利なし」といわれます。
したがって管理者は、どのタイプのコンフリクトかを見きわめ、適切な対応を選ぶことが重要です。
国境ゲームに学ぶ対処法と管理者の役割
それではコンフリクトの対処法にはどのような方法があるのでしょうか?
どう対処するかを考える際に役立つ例が「国境ゲーム」です。
【国境ゲーム】
二人組のペアを作って挑戦しましょう。
あなたと相手は国境線をはさんで向かい合って立っています。
国境線の内側(手前側)はそれぞれの領土です。
課題は「相手を自分の領土に入れること」です。
制限時間は3分間です。

さて、皆さんはどのように国境ゲームを解いたでしょうか?
あなたの解決策に最も近い対処法は、表2のうちのどれに当てはまるでしょうか?
強制 | 自らの利得にこだわり、競争し、支配する (Win-Lose) | 例:「こっちに入れ!」 瞬時に回答が出るが、力ずくで抑え込まれた側に否定的な感情が生まれる |
服従 | 自らの利益を捨て、相手の利益を優先させる (Lose-Win) | 例:引っ張り合いや言い争いを行い、負けた側は相手に服従する。負けた側は目的が達成されないため、フラストレーションがたまり、ストレスを抱える |
回避 | コンフリクトから身を引いたり、問題を先送りする (Lose-Lose) | 例:互いが衝突を避け、何もしない ただただ時間が過ぎる(問題を先送りにしているだけ) |
妥協 | 自らも譲るが、相手も譲るように仕向ける (Not Win. Not Lose:三方一両損) | 例:今回は譲るから、次のゲームは私に勝たせてほしい 例:お互いに国境をまたぎ合い 「まあ、半分、半分ということで、公平ではないか」 |
協調 | 協力して互いに利益をもたらすような方法を一緒に見つける (Win-Win) | 例:「お互いに場所を入れ替わり、相手の領土に行く」 |
ここで特に重要なのは「協調」です。
双方の意見を率直に出し合い、共通のゴールに向けて新しい解を導くことこそが、長期的に最も持続可能で効果的な方法です。
国境ゲームのポイントは「勝ち負けをつけろ」とは言われていない点にあります。
つまり、コンフリクト・マネジメントとは、勝者と敗者を決めるものではなく、双方が納得できる解を見出すことによって個人と組織の成長を促す営みです。
コンフリクトは組織にとって避けられない現象ですが、自分も相手も妥協せずに、納得できる解、満足できる解を導くには、①発想の転換(ゼロサム思考からの脱却)、②コミュニケーション、③相互の信頼、が欠かせません。
強豪と呼ばれるスポーツチームにおいても、決してすべて順風満帆というわけではありません。
さまざまなコンフリクトを乗り越えながらチームカを高めています。
タスク・プロセス・人間関係といったコンフリクトの種類を見きわめれば、「もめごと」はチームにとって必ずしもマイナスではありません。
むしろ、乗り越える過程そのものがチームを強くするのです。
もめことを恐れず、それを成長の糧とできる管理者こそ、チームを機能させる真のリーダーといえるのではないでしょうか。
引用・参考文献
1)鈴木竜太ほか.“組織行動一組織の中の人間行動を探る”.東京,有斐閣,2019, 290p
2)スティーブンP.ロビンス.高木晴夫監訳.“新版組織行動のマネジメント".東京,ダイヤモンド社,2009, 520p.
3)数家鉄治.“コンフリクト・マネジメント:紛争解決と調停”.京都,晃洋書房,2005, 243 p.
4)松浦正子ほか.特集:コンフリクトマネジメントのすすめ一「対立」にこそ「成長」へのヒントがある一.Nursing BUSINESS. 16(10), 2022, 5-23.
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【次回予定】第8回は「人材開発と組織開発」です。お楽しみに!
芳地泰幸(ほうち・やすゆき)
順天堂大学スポーツ健康科学部准教授
順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科准教授(併任)
香川県生まれ。順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科博士後期課程単位取得満期退学後、聖カタリナ大学講師、日本女子体育大学准教授を経て現職。公益財団法人大原記念労働科学研究所協力研究員。マネジメントの視点から組織活性化や職場の創造性、リーダーシップ開発について研究している。博士(スポーツ健康科学)。
『部下の成長を支えるキャリア開発の視点』(スポーツマネジメントから学ぶ!チームを機能させるためのマネジメント力アップ講座_第6回)