イマドキの若者解体新書:
新人を看護にコミットさせるワザ_第7回
夏の休暇が終わり、リフレッシュに成功すると秋からまた頑張る気になる人が多いのですが、リフレッシュがうまくいかなかった場合、充電が不十分のため退職を考える人が出る可能性があります。
イマドキの新人の一部には、病院への所属意識が希薄な人がいます。
そこを乗り越え、数年我慢できれば、先輩との人間関係も構築できるでしょう。
また、この期間に看護のやりがいを経験することで頑張る気になる人も多いため、入職1年目を離職させずに支援することが大事です。
【20歳代・女性の例】
残業したくないので退職します
4月に入職した新人のAさんです。
初期研修の時期は、同期と楽しそうに過ごしていました。
1日の研修が終わったあと、同期と一緒にカラオケに行き、“推し”のアニメ・ソングを歌うことで毎日盛り上がっていたようです。
Aさんは、学生時代からアニメの“推し”のイベントには授業を休んで行くほど、のめり込んでいました。
新人の初期研修が終わると、病棟での仕事も増え、仕事が終わる時間が徐々に遅くなり、カラオケに行くことができなくなりました。
その頃から、時々遅刻するようになりました。
それを注意すると落ち込むことがあったようです。
表情が硬い日があったため、看護師長が心配して面談すると、「私は、1年目は毎日定時には仕事が終わって家に帰れると思っていました。
今後夜勤に入る自信もないですし、残業のために“推し”の活動ができないのであれば仕事を辞めようと思います」と言ってきました。
これは一見、わがままな退職理由のため、社会人の責任感等を説くことで、退職を踏みとどまる事例に見えますが、イマドキの新人は“推し”にすべてをかけている場合がありますので、対応は少し慎重に行う必要があります。
対応例(NG例)
残業が嫌で仕事を辞めるといった短絡的な申し出に対し、みなさんはこれまでの新人への対応でうまく説得できた事例を頭に浮かべながら、「まだ1年目なので仕事に慣れてくると早く帰れるようになると思うよ」と先の見通しを伝えたり、「社会人としては、責任をもってその日の仕事を切りのいいところまでやって帰るのが常識よ」とアドバイスしていたかと思うのですが、イマドキの新人を辞めさせない対応としては、NGとなることがあります。
先輩世代であるゆとり・さとり世代にこれまで普通にやってうまく説得できていた対応も、Z世代には通用しない可能性があるかもしれないのです。
対応例(OK例)
Z世代は、コスト・パフォーマンス(コスパ)よりも「時間対効果」を意味する、タイム・パフォーマンス(タイパ)を重視する傾向が強いことが特徴といわれています。
このため、「残業は自分にとっては無駄なことだ」という価値観を持っている可能性があるため、残業の必要性を論じても心が動くことは少なそうです。
それよりは、Z世代に届く話として、“残業の価値観を変える話”をすることがOK対応と考えます。
例えば「残業したら、その分残業代がもらえるので、これまで以上に“推し”のグッズを買うお金が増えると思うけど、それのほうがいいと思わない?」といった感じです。
これまで自分にとって無駄と思っていた時間が、“推し”のグッズをたくさん買うための時間に変化すると、夢が広がるため、楽しい時間になるかもしれません。
われわれは、これまでの新人を育てた経験値に基づいて、イマドキの新人にアドバイスをすることが多いと思いますが、Z世代はこれまでの新人とは違い、生まれたときからインターネットやデジタル環境の中で育った世代のため、価値観が違う可能性があります。
このため、デジタル思考のZ世代に対しては、これまでの新人の育て方に、デジタル思考の価値観を加味し、ひと工夫加えたアドバイスを考える必要があると考えます。
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【次回予定】第8回「Z世代のプライドと承認欲求」です。お楽しみに!
「発達障害の特性への支援~注意欠如・多動性障害(ADHD)傾向の場合~」(イマドキの若者解体新書:新人を看護にコミットさせるワザ_第6回)

谷原 弘之(たにはら・ひろゆき)
川崎医療福祉大学医療福祉学部臨床心理学科 教授
公認心理師・臨床心理士。職場のメンタルヘルスサービスであるEAP(Employee Assistance Pro-gram:従業員支援プログラム)を実践し、病院・企業などを対象にメンタルヘルス研修、復職支援などを手掛ける。看護現場でのメンタルヘルス対策に関しても積極的に支援している。