少子高齢化の進む日本社会では、看護師の人材不足も加速し、看護師のより働きやすい環境と看護の質向上が求められています。
その一助となる看護現場の業務改善について、看護管理者は何を知るべきでしょうか。
ナーシングビジネス2024年春季増刊『働き方が変わる! 組織が変わる! 看護現場の業務改善お役立ちマニュアル』の編著者である熊谷雅美氏に、同書についてお聞かせいただきました。
持続可能な医療・看護のために
生産年齢人口の減少は、産業構造や労働者の働き方に大きな影響を及ぼしており、どの職業においても働き方や業務の効率化を考えることが必要になりました。これは医療・看護職も同様です。
2017年、私は病院の看護管理者の代表の委員として厚生労働省が実施する「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」に参加していました。
座長の渋谷健司先生(東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室教授)による「『こうありたい』という思いを語っていこう」との声かけのもと、各委員は医療や看護がどうあればいいのかについて、未来を見すえ、諸外国の状況やさまざまな研究データに基づいてプレゼンテーションをし、議論を重ねていきました。
その中で、ある大学病院で行われていたICTを活用した業務効率化やビッグデータとAIを用いた医療従事者支援についての紹介があり、多様な取り組みが臨床現場の中で始まっていることを知りました。
それから月日が流れた今、医療や看護がどうなれば未来にわたって持続可能であるのか、真剣に議論が必要になっています。
看護においては2019年、厚生労働省補助金事業「看護業務効率化先進事例収集・周知事業」が始まりました。
臨床現場・教育現場などが協働し、看護職の働き方や看護業務の方法を考えなければならないときが来ています。
業務見直しのエビデンスと推進のプロセスを学ぶ
本書では、看護業務効率化を推進するために必要な看護業務に関する科学的根拠を各領域の実践的専門家の先生方にお示しいただくとともに、現場実践者による業務改善のプロセスとアウトカムについてご紹介いただきました。全3章の内容を以下に簡単にまとめます。
第1章 業務改善の目的と看護管理者の役割
まずは、看護職がやりがいを持って働き続けられる職場となるよう、昭和の時代から現在までの看護業務効率化の経緯をひも解いていきます(図)。
そのうえで、診療報酬や医療現場でも進められているデジタル革新(DX)、看護サービスのもたらす経済効果などについても考えます。
第2章 業務改善の理論とエビデンスを学ぶ
時代は“KKD( 経験・カン・度胸)”からEBM(Evidenced Based Management)へと移行されています。
ここでは小池智子先生(慶應義塾大学准教授)にもお話を伺っています。
業務改善や業務効率化に関する理論について「ナッジ」(行動経済学理論の一つ)を含め解説していただきました。
また、「バイタルサイン測定」「排泄ケア」「体位変換・ポジショニング」に関する業務改善のエビデンス、業務改善上の注意点(教育視点、法的視点)、心理的安全性についてもまとめています。
第3章 実践者にきく!業務改善のプロセスとアウトカム
第3章は事例集です。以下の5つの事例をピックアップしました。
①訪問看護へのエコー導入による可視化とICTを使った医師との連携(タスクシフト/多職種連携)
②搬送ロボットを導入して看護師の負担を軽減し専門性を高める(モノへのタスクシフト)
③不穏予兆検知AIの活用可能性 研究開発の歩みと成果(IT活用)
④音声入力を活用した看護記録を導入し、看護の生産性と職務満足度を向上させる(記録)
⑤勤務表作成支援ソフト導入による作業負担軽減(勤務表作成)
* * *
看護業務の効率化を進めることで、看護職が健康でやりがいをもって働き続けることができれば、患者にとっても満足度が高く、安全で安心な看護を提供し続けることにつながります。
そして何より、看護職が誇りを持って仕事ができる未来を創ることが大切だと考えます。
▼お話を伺った方
熊谷雅美 氏
医療法人社団康心会 康心会汐見台病院 看護部長
取材・構成 Nursing Business編集室
ナーシングビジネス2024年春季増刊
働き方が変わる! 組織が変わる!
看護現場の業務改善お役立ちマニュアル
業務見直しのエビデンスと推進のプロセスを学び、看護の質向上につなげる
熊谷 雅美 編著
メディカ出版 2024年3月刊行
B5判 168頁 3,080円(税込)
ISBN: 978-4-8404-8390-2