業務効率と看護の質向上の二律背反を追求するヒント

第8回 業務効率と看護の質向上の二律背反を追求するヒント(看護管理者のためのタイムマネジメント)

医師の働き方改革を進めるためには医療機関全体でタイムマネジメントを行わなければなりません。
コミュニケーションでタイムマネジメントを向上させる秘訣について、前回の記事でお伝えしました。今回は、業務効率と看護の質向上の二律背反を追求するヒントについて解説していきます。

働き方改革は業務効率向上だけがゴールではない

考えてみると、効率を高めることと、質を高めることは相反します。
効率を上げると質は上がりませんし、質を高めようとすると効率はある程度犠牲にせざるを得ません。
しかし、より良い医療を提供しようとすれば、この相反する二つを両立させなければいけません。

ところで、本当の意味での働き方改革とは何でしょうか?
その本質は、その職場で働くみんなが「働きやすい」と言えることではないでしょうか。
子育て中の方も、介護中の方も、経験の浅い若手も、他の病院から転職してきた中堅も、生え抜きのベテランも、誰一人取り残さないような働きやすい職場です。

つまり、業務効率向上を追求するだけが目的ではないということです。
ここを勘違いして、「とにかく無駄な業務を排除する」「残業時間を減らす」といった目標に捉われると、スタッフが働きにくさを感じ、モチベーション低下や最悪の場合、離職につながってしまいます。
働き方改革を推進しながら離職者が増えるのはなんともやるせないですよね。
時間効率が上がったのに、看護の質が低下してしまうのですから。

では、どのように進めていけば良いのでしょう。
第6回の記事でも紹介したとおり、愚痴にこそ業務改善の種は埋まっています。
愚痴は不満ですので、その不満を解消することを目指してみてください。
もちろん、単なる個人的なわがままを叶えてくださいという意味ではありません。
スタッフみんなが納得できるような「働きやすさ」を追求していくのです。
そうすることで自ずと看護の質は向上していきます。

最優先事項とは何か

さて、ここで改めて「何を最優先に取り組むか」について考えてみましょう。
図は第3回の記事にも掲載したものです。
働き方改革の推進は『第2領域』に入る取り組みです。
働きやすい環境を整備しておくことで第1領域の仕事(例えば、インシデントへの対応やクレーム対応など)を減らすことができます。

スティーブン・R.コヴィー『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』キングベアー出版(2013)より筆者一部改変
図 時間管理のマトリクス

また、働き方改革で取り組む業務改善も、第2領域の活動時間を増やすために行われるべきでしょう。
つまり、今スタッフが時間を取られている「第3領域」をいかに減らせるかが鍵になっているということです。

重要ではない仕事はそこそこにして、看護の質向上に寄与する第2領域の仕事に時間が割けるように工夫してください。
前回もお伝えしたように、毎日行う業務の工数を減らしたり、動線を見直したり、ほんの少しの変更でみんなが助かることを発掘していきましょう!

組織目標の達成とタイムマネジメント

あなたの病院にももちろん目標が設定されていると思います。
その目標は、経営理念とともに掲げられた大きな目標や中長期目標、年度ごとに見直される目標もあるでしょう。
また、各部門で掲げる具体的な数値目標もあると思います。

タイムマネジメントを行うことによって、これら組織目標の達成を阻害することがあれば、その取り組みは間違っていると言わざるを得ません。
個人のタイムマネジメントにおいても、組織のタイムマネジメント(業務改善)においても、目的は生産性の向上であり、その先に組織目標の達成が見えていなければいけないのです。

タイムマネジメントを行う際には、改めて組織目標と齟齬がないかを確認してください。
そもそもタイムマネジメントとは、本来優先すべきことを優先するための考え方、時間の割り振り方のことであるとお伝えしました。
組織目標を見失った状態では、本来のタイムマネジメントは行えないはずです。
病院が目指す目標、看護部が目指す目標を達成するために、どれだけの時間を費やすべきかを考えてください。

今回は業務効率と看護の質向上の二律背反を追求するヒントをお伝えしました。
次回は、師長クラスのレベルアップを支えて組織の時間効率を高める方法を解説していきます。
仕事においては、どんな職種であっても追い求めるべきテーマと言えます。人手不足感の解消に役立ちますので、楽しみにお待ちください。


第7回 コミュニケーションでタイムマネジメントを向上させる秘訣
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山本武史(やまもと・たけし)
ポテンシャルビジョン代表
看護部専門組織マネジメントコーチ
米国CTI認定プロフェッショナル・コーアクテイブ・コーチ(CPCC)

200床以上の病院看護部を専門に、人間関係を理由とした離職とメンタル不調による離脱を防ぐ専門家。看護管理者のマネジメント能力を高めて「やめたくない看護部」をつくり、心理的安全性とワーク・エンゲイジメントの向上をサポートしている。

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