第12回 現場の支え合う文化を育んで安心して休める職場をつくる(看護管理者のためのタイムマネジメント)
医師の働き方改革を進めるためには、医療機関全体でタイムマネジメントを行わなければなりません。
現場の「時間が足りない」を解消する方法について、前回の記事でお伝えしました。
最終回では、支え合う文化を育んで安心して休める職場をつくる方法について解説していきます。
なぜ人を増やしても忙しさが解消されないのか
定数確保しているにも関わらず、人手不足を感じているという管理者の方も多いかと思います。
なぜそのようなことが起こるのでしょうか。
役割分担の過程を考えてみましょう(図 参照)。

仕事を一人でたくさんこなそうとすると、当然手が足りません。
そこで助けを呼び、大人数で取り組むようにしますが、リンゲルマン効果(社会的手抜き)が働き、みんなが「これだけいれば全力を出さなくても大丈夫」と少しずつ手を抜きます。
そうなると、まだ仕事のほうが多い状態が続きます。
そこで、もう一人補充しようと考えるのですが、また同じように「もう一人増えるなら少し楽ができるな」とほんの少し手を抜いてしまうのです。
これらは悪気なく無自覚的に行われるため、なかなか気づけません。
そこで管理者として、組織マネジメントをしっかり行うことと、個人の成長を促すことを行ってほしいのです。
具体的な方法は後述します。
休みなく働くことが非効率になる理由
「昨日も残業で…」とか「〇〇連勤」とかと聞くと「がんばっているな」と思うかもしれませんが、この考え方は要注意です。
組織をマネジメントする立場の管理者としては、特に気をつけてください。
疲れが残った状態で責任の重い仕事を任せることは大きなリスクです。
集中力が低下した状態で仕事をした結果、インシデントにつながってしまった経験がある人にはおわかりいただけるでしょう。
昔は長時間労働が、がんばっている証のように思われていたかもしれませんが、今は「時間内に決められた以上の成果を出すこと」が、がんばっている証です。そのためにしっかりと身体と心を休める時間を大切にしていただきたいのです。
「しっかり休むのも仕事のうち」と言いますが、これも考え方が逆で、仕事のために休むのではなく、「幸せな人生を送るために、短時間で仕事の成果を出すこと」を考えてほしいのです。
休みなく働き続けることは、切れ味の悪い包丁で調理し続けることと同じです。
時折、包丁を研ぎ、切れ味を回復させてから調理に臨むほうが効率も良く、ストレスも減ります。
組織マネジメントで安心して休める職場を目指す
前述した通り、マネジメントをしっかりと行わないと、リンゲルマン効果で無自覚的に非効率な職場になってしまいます。
では、どのように人と組織をマネジメントしていくことが求められているのでしょうか。
サッカーやバスケットボールを思い出してもらえるとわかりやすいでしょう。
決められたポジションはありますが、お互いにカバーし合いながら勝利に向けてプレーする、あのイメージを持ってください。
スポーツの場合、どのように動けばメンバーの強みを活かせ、良いプレーができるかを、お互いに声をかけ合い、話し合います。
これも見習うべきポイントでしょう。
逆に、「これは私の仕事だが、あれは私には関係ない」と役割を制限してしまえば、チームワークは発揮されません。
組織をマネジメントする上で絶対に必要なのは、対話です。
お互いを深く理解し合い、助け合える雰囲気を醸成していきましょう。
そして、一体感のあるチームが生まれ、そうしたなかで「私は〇〇でチームに貢献したい!」という願いが心に生じたとき、チームにとって必要な個人成長がどんどん促進されていくのです。
私たちは「自分のため」に働くのが良いか、「他者のため」に働くのが良いかと二極化して考えがちですが、「自分のためであり他者のためでもある」ことを目指すべきです。
「仲間が喜んでくれたら自分もうれしい」。みんながこのような気持ちになれば、業務効率が向上することは間違いないでしょう。
また、そうなれば、必要なときに安心して休めますし、仲間が休むことにも抵抗感はなくなるはずです。
信頼し合い、協力し合い、お互いに成長できる。そんな職場を目指してください。
今回は支え合う文化を育んで安心して休める職場をつくる方法をお伝えしました。
さて、1年間全12回にわたって『看護管理者のためのタイムマネジメント』をお届けしてきました。
時間管理だけでこれだけのボリュームがあることに驚かれたかもしれません。
しかし、時間は最も貴重な資源です。
有効活用できれば最高の組織づくりに役立ちます。
ぜひ、日々の時間の使い方を見直してみてください。
あなたの組織がより働きやすくなりますように心から願っています。
第1回 現場の「時間が足りない」を解消する方法
未来の人材育成戦略!~若手の「管理職になりたい!」という気持ちを育てる方法~全6回

山本武史(やまもと・たけし)
ポテンシャルビジョン代表
看護部専門組織マネジメントコーチ
米国CTI認定プロフェッショナル・コーアクテイブ・コーチ(CPCC)
200床以上の病院看護部を専門に、人間関係を理由とした離職とメンタル不調による離脱を防ぐ専門家。看護管理者のマネジメント能力を高めて「やめたくない看護部」をつくり、心理的安全性とワーク・エンゲイジメントの向上をサポートしている。
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