現場の「時間が足りない」を解消する方法

第11回 現場の「時間が足りない」を解消する方法(看護管理者のためのタイムマネジメント)

医師の働き方改革を進めるためには、医療機関全体でタイムマネジメントを行わなければなりません。
突発的な仕事が発生しても、時間内で業務を終えるにはどうすれば良いかについて、前回の記事でお伝えしました。
今回は、現場の「時間が足りない」を解消する方法について解説していきます。
ここで特にお伝えしたいのは「スタッフの成長」です。
最も読みづらい要素ですが、確実に組織のタイムマネジメント向上に貢献してくれます。

主体性を発揮させるための思考回路とは

人材育成系の研修(コーチング研修など)では「どうやったら主体性を引き出せるか」といった類のご質問をいただくことがあります。
この質問に対する答えはシンプルで、みんなすでにご存知です。
「考えさせること」、これしかありません。
逆に考えないと、すぐに「何をしたらいいですか?」「どうやればいいですか?」と聞きにきます。
何もせず待っているだけよりはマシですが、この質問に答えれば答えるほど、「考えないクセ」がついてしまいます。

ところで、「主体性」とは何でしょうか?
よく混同されがちな「自主性」との違いをひも解きながら考えてみましょう(図1)。
積極性という共通項はありますが、若干の違いがあります。
自主性とは「何をするべきかわかっていることに対して率先して取り組む態度」であり、主体性とは「何をするべきかわからない状態でも自ら考え率先して取り組む態度」のことです。
つまり、自主性に「考える力」をプラスしたものが主体性と解釈していただければ結構です。
ちなみに、自主性から積極性をマイナスすると「指示待ち」や「受動的」と言われる状態になってしまいますので要注意です。

図1 主体性を育む方法

さて、考える力を育むためにはどうすれば良いでしょうか。
それは「目的」と「目標」から逆算して「手段」を考えるという思考回路を定着させ、強化していくことで叶います(図2)。

図2 主体性を発揮するための思考回路

指導をするとき、仕事を依頼するときに目的と目標と手段を3点セットで教えていきましょう。

責任感を育んで現場対応力を高める方法

先ほどの「主体性」とともに、人材育成で多くの指導者を悩ませるのが責任感の育み方です。責任感というと、どうも性格によるとか、生まれ持った資質のように考える人もいますが、ちゃんと育むことはできます。

しかし、管理者の方にも考えてもらいたいのです。
「責任」とはいったい何でしょうか?
その言葉が意味することとは?
多くの受講生に同じ質問をしてきましたが正確に答えられる人はごくわずかです。
多くの人が「責任は負いたくないもの」「できれば避けたいもの」と考えがちですが、なぜそこまで毛嫌いするのでしょうか。
それは本当の意味を理解していないからです。

責任という漢字を見ると「責められ役を任される」というようなニュアンスになりますが、英語で表記すると「responsibility」となり「反応(response)」と「能力(ability)」で成り立っていることがわかります。
つまり、責任とは出来事や状況に「対処する力」だということです。

さて、対処する力を高めるためには何をすれば良いでしょうか?
これは簡単ですね。自分で経験したことから「学ぶ」か、経験したことのある人から「習う」かすれば良いのですから。
つまり「学習」です。いろんなことを経験させてあげた上で振り返りをし、未経験のことは知識やスキルを持った人に相談させる習慣を持たせてあげれば責任感を育むことはできます。

対話の時間を設けて協働体制を強化する

組織のタイムマネジメントを向上させるための手段として「対話」を提案します。
「話し合う時間すらないのですが……」と言いたくなる人も多いでしょうが、この連載シリーズでも何度もお伝えしてきました。
組織の生産性を高めたり、働き方改革を推進したりするためには「人間関係改善」は必須です。
お互いを尊重し、相互理解を深め、仲間の強みや得意なことをかけ合わせて相乗効果を生み出すために対話が必須なのです。
会議などのように、結論を出すための話し合いである「議論」とは違いますから、注意してください。

また、参考までに「尊重」という言葉の意味もお伝えします。
心理学者のエーリッヒ・フロムによると「尊重とは、(中略)人間のありのままの姿を見て、その人が唯一無二の存在であることを知る能力のことである。(中略)人を尊重するには、その人のことをまず知る必要がある」(エーリッヒ・フロム著『愛するということ』より引用)とされています。
業務指示や人事評価だけでなく、スタッフ一人ひとりを理解しようとしていますか?
効率を高めるためにも、一度見直してみてください。 

今回は現場の「時間が足りない」を解消する方法をお伝えしました。
次回は、「支え合う文化を育んで、安心して休める職場をつくる方法」を解説していきます。
次回が最終回となりますので、現在の看護部で最も重要だと思われるテーマをお届けいたします。
楽しみにお待ちください。


第10回 突発的な仕事が発生しても時間内で業務を終えるには
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山本武史(やまもと・たけし)
ポテンシャルビジョン代表
看護部専門組織マネジメントコーチ
米国CTI認定プロフェッショナル・コーアクテイブ・コーチ(CPCC)

200床以上の病院看護部を専門に、人間関係を理由とした離職とメンタル不調による離脱を防ぐ専門家。看護管理者のマネジメント能力を高めて「やめたくない看護部」をつくり、心理的安全性とワーク・エンゲイジメントの向上をサポートしている。

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