第9回 師長クラスのレベルアップを支えて組織の時間効率を高める方法(看護管理者のためのタイムマネジメント)
医師の働き方改革を進めるためには、医療機関全体でタイムマネジメントを行わなければなりません。
業務効率と看護の質向上という二律背反を追求するヒントについて、前回の記事でお伝えしました。
今回は、師長クラスのレベルアップを支え、組織の時間効率を高める方法について解説していきます。
良くも悪くも師長クラスの舵取りが重要
これまで多くの看護部長、副部長の相談に乗ってきましたが、一番期待が高いのが、師長クラスのリーダーシップについてです。
病棟においても外来においても、現場の最高責任者として師長がきちんと舵取りをして、業務効率と看護の質の両立を図ってほしいという意見がほとんどです。
では、師長として組織の時間効率をあげたり、組織課題に取り組んだりする中で、どのようにリーダーシップを発揮していけば良いでしょうか。
まず意識していただきたいのは、師長として解決すべき問題とは何かということです。
これは現場のトラブルではなく、組織としての問題です。
例えば、患者からのクレームに直接対応するのではなく、クレームが起こらない組織にするためにはどうすれば良いかを考えて、対応策を実施していくようなことです。
現場のトラブル対応も大切な仕事ですので、全く何もしないというわけにはいきません。
しかし、組織としての問題を見抜き、対応を考えることがなぜ大事なのかを理解していただきたいのです。
そして、もう一つ大切にしていただきたいのは主語です。
「私」ではなく「私たち」で考えてください。
「私は何をどうするべきか」と個人的な役割や実行動を考えることも大切ですが、「私たちは何をどうするべきか」と、組織としてのあるべき姿から逆算して施策を考えてください。
問題発見力がチームの時間効率を左右するわけ
話はそれますが、あなたは船に乗らなければならないと仮定します。
A:船の修理が得意な船長の船に乗るか、B:船が壊れないような航路を取る船長の船に乗るか、どちらを選びますか?
もちろん「B」ですよね。船を修理する技術を持っているに越したことはありませんが、そもそも修理が必要な状況に陥らないことのほうが大事です。
この問いの答えを考えればおわかりいただけるでしょう(図1)。
船は組織の例えです。先々を見越して、潜在化した問題をいち早く発見し、それを避けることが現場のリーダーである看護師長には求められているのです。
ところで、組織としての問題とは何でしょう?
まず明確にしていただきたいのが「理想の状態」です。
そして、そこから現状を差し引いて見えてくるのが問題です。
さらに、その問題を解決するために取り組む対策のことを「課題」と言います(図2)。
ダイエットに例えるとわかりやすいでしょう。
理想の体重が50kgとして、現状60kgとします。問題とは体重が10kg重いということです。
この10kgの減量をするために「運動習慣を身につける」「食事制限を行う」「継続するための仕組みを考える」といった手立てが考えられますが、これらを課題と呼びます。
さて、仕事の話に戻りますが、このような「理想と現状の差」を見極めることが、正しい課題の設定につながり、無駄な時間を減らすのです。
先行投資としての人材育成
時間管理と人材育成は、別のテーマと捉えられがちです。
しかし考えてみればお分かりいただけると思いますが、組織の時間効率を高めていこうと思えば、一人ひとりのスキルアップが必須となってきます。
人材育成や教育指導は「時間があるから実施する」ものではなく、「時間効率を高めるための先行投資として実施する」ものです。
インシデントを起こしたあと、その都度時間をとって指導するのではなく、インシデントを起こさないように教育する方が時間効率は高まります。
角度を変えて見れば、「人材育成・教育指導の時間が取れない」というのは、将来の貴重な時間を前倒しで使っているとも言えるでしょう。
逆に、将来の貴重な時間にゆとりを持たせるために、今ある時間を投資していきませんか。
今回は師長クラスのレベルアップを支えて組織の時間効率を高める方法をお伝えしました。
次回は、「突発的な仕事が発生しても時間内で業務を終えるにはどうすれば良いか」を解説していきます。
管理者としてのワークライフバランスの向上、次期管理者の憧れになるために重要なテーマです。
楽しみにお待ちください。
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山本武史(やまもと・たけし)
ポテンシャルビジョン代表
看護部専門組織マネジメントコーチ
米国CTI認定プロフェッショナル・コーアクテイブ・コーチ(CPCC)
200床以上の病院看護部を専門に、人間関係を理由とした離職とメンタル不調による離脱を防ぐ専門家。看護管理者のマネジメント能力を高めて「やめたくない看護部」をつくり、心理的安全性とワーク・エンゲイジメントの向上をサポートしている。
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