子どもの頃から勉強もスポーツも好きで成績もよかった私ですが、学級委員やキャプテンに選ばれるほど人気者ではありませんでした。なぜか選ばれない私、それがコンプレックスでもありました。そんな私は関東逓信病院(現・NTT 東日本関東病院)に入職当時、先輩たちの人数を数えて、57歳で主任になれるのかな……と思っていました。ところが入職から数年、その日は突然やってきました。「あなたに産科病棟の主任になってもらいます……」
予定外の30代で主任になったのです。コンプレックスを抱えながらも、やらなければならない。がむしゃらに駆け抜けた主任時代を経て、翌年には看護師長に就きます。看護師長になれば病棟のトップとして病院全体の運用を考えなければならない、でも何をしたらよいかわからない。世の中にはさまざまな書物がありますが、最終的には自分で考えなければならないないんです。悩んだ末に思い当たったのが、「答えは妊婦(患者)さんにある」ということでした。看護師・助産師が何をすべきかではなく、看護師・助産師に何をしてもらいたいのかを、妊婦さんに聞くことでした。そして「おいしいごはんが食べたい」というその回答の一つから、給食改善に取り組みました。妊婦さんにはとても喜んでもらえましたが、それ以上の収穫がスタッフの喜びです。「自分たちが考えて、やればできる」という体験が、スタッフのやりがいにもつながったのです。私自身も皆と力を合わせて何かを達成することを学びました。自分だけではできないことがある。多くの人の力が集まって成し遂げられるのです。
その後、40代後半で看護部長となります。約600 人の看護師のトップとしてどうすればよいのか? 一人ではできません。「そうだ! 人の手を借りてやろう」と考えつき、「誰が何を好んで行動しているか」を見抜こうとしました。いわば人を見るときに「縦に見る」のではなく「横に見る」のです。「○○さんはここができていて、ここはできていない」というのではなく、「○○ができているのは○○さんと○○さん」という具合です。そうすると一人ひとりがイキイキとやっていること、得意としていることが見えて、人の力を集結することができるようになります。多くの人をやる気にさせるには、その人が楽しんでいることを見出すことです。そしてこの考えは今の私にも生きています。
坂本 すが(さかもと・すが)
東京医療保健大学副学長・看護学科長。和歌山県龍神村に生まれ、助産師、看護管理者として現場のマネジメントに携わる。2011 年から3 期6 年、日本看護協会会長を務める
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