「話せる現場」には変わる力がある―看護とダイアローグ(対話)をめぐって

『つながる看護管理 VOICE』第2回目アンケート結果

「ネガティブ・ケイパビリティ――正解のない状況に耐える力」。前回の読者アンケートでは、正解のない状況について、看護管理者の多くの経験が寄せられました。
その背景には、スタッフ同士の調整や患者・家族との関わりにおける、複雑で簡単に解決できない現場のジレンマがありました。
そして、それを支える鍵として注目されたのが「ダイアローグ(対話)」です。
今回はその「対話」そのものに焦点を当て、看護師同士の対話の実態、課題について深掘りしました。

■「対話が足りない」という実感

まず、「職場で対話の時間が十分に確保されているか」に対して、「十分」「やや確保されている」と答えたのは28%にとどまりました。
一方で、「あまりない」「まったくない」は59%にのぼりました。

対話がうまくいっている場面として多くあがったのは、「同僚との雑談や相談」。
そして、そう感じる理由は「本音を言いやすい雰囲気がある」「関係性が近い」「話が双方向」などの順でした。
これは公式的な場ではなく、関係性や空気のなかで生まれる非公式な対話の重要性を物語っています。

職場で「対話がうまくいっている」と感じる場面 (複数選択可)割合
A: 申し送りや情報共有のとき1026%
B: カンファレンス・検討会など1436%
C: リーダーや上司との面談1128%
D: 同僚との雑談や相談2974%
E: 他職種との連携場面1026%
F: 対話がうまくいっている場面はない410%

*複数回答のため、合計は100%を超える(以下同じ)

「対話がうまくいっている」と感じる理由 (複数選択可)割合
A: 業務にゆとりがあり、話す時間がとりやすい1128%
B: 対話の進め方や手法が確立されている 718%
C: 上司・部下との関係性が近い1436%
D: 本音を言いやすい雰囲気がある1846%
E: 対話の効果が実感できる 1436%
F: 話が双方向になっている1436%
G: 対話の場が設定されている1128%
H: 対話がうまくいっている場面はない38%

一方で、「対話がうまくいかない」場面は「カンファレンス・検討会」「リーダーや上司との面談」など、より公式的な場面でした。
「うまくいかない理由」として多かったのは、
業務が忙しくて話す時間がとれない
本音を言いにくい雰囲気がある
話が一方通行になってしまう」でした。

職場で「対話がうまくいっていない」と感じる場面 (複数選択可)割合
A: 申し送りや情報共有のとき1538%
B: カンファレンス・検討会など2667%
C: リーダーや上司との面談1744%
D: 同僚との雑談や相談25%
E: 他職種との連携場面1128%
F: 対話がうまくいっていない場面はない13%
G: その他(場所、環境にもよる)13%
「対話がうまくいっていない」と感じる理由 (複数選択可)割合
A: 業務が忙しくて、話す時間がとれない2256%
B: 対話の進め方や手法がわからない821%
C: 上司・部下との関係性に距離がある1128%
D: 本音を言いにくい雰囲気がある2359%
E: 対話の効果が感じられない1333%
F: 話が一方通行になってしまう(情報伝達だけ)2564%
G: 対話の場が設定されていない821%
H: 対話がうまくいっていない場面はない13%

時間がないだけでなく本音を言いにくい関係性のなかで、話が一方通行になり、単なる情報伝達だけになってしまう現状が浮き彫りになりました。

■現場からの工夫

自由記述では、「話したいのに話せない」現実を乗り越えようとする具体的な工夫も寄せられました。
「話しやすい雰囲気を持つ」
「否定せず一度受け止めて聞く」
「問いかけを意識して話す」
「自分の解釈をせず、きく」
「(時間がないなら)時間で集まるタイムマネジメントしつつ“肝は掴んでおく”」

一方で、「リーダーもそうできればいいが、忙しさのあまり語尾がきつくなる」「急性期外科で時間が取れず、まずは時間管理から」「緊急入院で時間が中断される」といった声もあり、個人の努力では限界があるような組織上の課題や、管理者の余裕のなさがにじむ声もありました。

これらの現場の声からは、「話す時間がない」からといって対話を諦めるのではなく、話すための雰囲気づくりや聞く姿勢、時間管理の工夫など、よりよい対話を求める管理者の姿が見えてきます。

職場の「対話」をよりよくするために、取り組んでいることや、あったらいいと思う工夫 (自由記述)
・時間の確保
・自分としては話しやすい雰囲気を持つ努力をしている。否定せず全てを一度受け止めて聞く
・リーダークラスもそうできるといいと思うが忙しさのあまり語尾がキツくなっている場面を見かける
・自分の解釈をせず、相手の話をきく
・職員数の減少をカバーできることが優先課題
・急性期の病院の外科系の部署なのでやりたいと思うがなかなか時間が取れなかった。時間管理に取り組み時間、ゆとりの捻出からはじめているところ
・発言や行動に対しては、問いかけを意識しながら話している
・時間と場所の確保が難しい。できるだけ業務時間内に時間を確保できるようにしているが、緊急入院などで中断されることが多い
・話を聞く姿勢
・時間で集まるタイムマネジメントしつつ肝は掴んでおく

「対話」のニーズと手法への関心

今回の調査では、「対話を通じて得たいもの」として、信頼関係(79%)、思考を深める場(77%)、育成につながる時間(72%)などが多くあがりました。

加えて、「対話の手法」に関心があるかという問いには、リフレクション(79%)やオープンダイアログ(72%)をはじめ、すべての手法に関心が寄せられました。

「対話を通して得たいもの(職場に必要だと感じるもの)」は?(複数選択可)割合
A: チームの信頼関係3179%
B: 看護師としての思考を深める場3077%
C: 自己の振り返り・内省2769%
D: 後輩・部下の育成につながる時間2872%
E: ストレス軽減・安心感2359%
F: 他職種との関係性構築1538%
G: 意見を自由に言える風土2564%
H: その他(患者に必要と思える内容の情報共有)13%
以下のような”対話の手法”について、関心があるもの(複数選択可)割合
A: オープンダイアローグ2872%
B: 哲学対話1538%
C: リフレクション3179%
D: コーチング・面談2462%
E: 多職種カンファレンス1846%
F: その他(アサーション)13%
G: 関心はない00%
看護師が「問い」を持ち、対話する意味とは?
ある大学では、医療従事者や一般の人が集まり、看護師が出した問い「尊重するとは何か?」をテーマに哲学対話が開かれました。哲学対話とは、「そもそもケアとは?」「なぜこの選択をしたのか?」といった正解のない問いについて、他者とともにじっくり考える活動です。私も参加したこの対話の場は熱気にあふれ、「考えが整理される」「話すことで新たな気づきが生まれる」場となっていました。
対話とは、答えを出すことではなく、問いを持ち合い、ともに考え続けること。この姿勢は、看護管理におけるチームづくり、後輩育成、ケアの質の向上とも深く結びついています。

編集室より:対話のある関係性が、現場を変える

今回のアンケート結果からは、「対話が足りない」「時間がない」といった現実の課題と同時に、「本当は話したい」「考えを深めたい」という願いも感じられました。
これらの声は、“深く考える対話”へのニーズが確かに存在していることの証でしょう。

忙しい現場では、時間も心の余白も限られています。
けれど、「対話」できる相手がひとりでもいれば、職場は少しずつ変わっていけるはずです。

対話がうまくいかない理由に挙げられた点の解決のヒントになる記事を本サイトからピックアップしましたので、参考になれば幸いです。

「業務が忙しくて、話す時間がとれない」
→「現場の「時間が足りない」を解消する方法
「本音を言いにくい雰囲気がある」
→「組織運営は「緊張」と「緩和」のバランス
「話が一方通行になってしまう」
→「叱る・注意するだけの指導から脱却!教育担当者必見の看護教育リフレクション

次回アンケート予告

次回は「看護師の離職防止」をテーマに、アンケートを実施します(6月中旬予定)。お楽しみに!

「答えが出ない状況」にどう向き合う?看護管理者に求められるネガティブ・ケイパビリティ(『つながる看護管理 VOICE』第1回目アンケート結果)
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