イマドキの若者解体新書:
新人を看護にコミットさせるワザ_第8回
【架空事例】
同期に遅れを感じ、プライドと自信のなさが葛藤するタイプ
入職した頃、同期とは何でも話をしていました。
夏が近づく頃には、夜勤に入る同期が出始めましたが、自分の課題をこなすことで精一杯だったため、あまり気になりませんでした。
秋になり、多くの同期が夜勤でひとり立ちしていることを知り、急にあせるようになりました。
先輩からは「自分のペースでいいよ」と言ってもらえるのですが、逆に早くひとり立ちするようせかされているように感じます。
「自分は看護師に向いていないのだろうか」「病院を辞めたほうがいいのだろうか」とネガティブな考えが頭に浮かび、時に、「先輩から自分だけいじわるをされ、夜勤に入らせてもらえない」と、怒りが湧くこともあります。
ワンポイント解説
これまでの新人にも起こっていた事象のように見えますが、これまでの新人は同期に遅れを取った際、「看護師に向いていない」「病院を辞めたい」といったネガティブな考えが浮かぶにとどまるタイプが多かったと思います。
Z世代の場合は、夜勤に進むことを認めてもらえないことが、Z世代の特徴の一つである“承認欲求”を満たされないことにつながり、それが他罰的な思考と結びつくと、“パワハラを受けている”という考えに進む人がいるようです。
このタイプは、プライドが傷つき、怒りが湧くため、冷静に話ができないことがあります。
冷静さを欠いているときは、人格を否定されたと感じて攻撃的になるため、話し合いは複数名で対応することが必要です。
対応例(NG例)
Z世代の新人から夜勤に入る課題に進めなくて面談を求められた場合、「あなたは〇〇と△△ができてないから、そこができるようにならないと夜勤に入ることはできません」と、否定形での説明はNGです。
理由は、Z世代の特徴の一つに“承認欲求”の強さがあり、それがプライドと結びつくと、否定形の説明は自分が否定された(人格を否定された)と錯覚し、パワハラと勘違いすることがあるからです。
また、「他の同期のことは気にしなくていいよ」といった諭し方もNGです。
こちらも、他の同期が自分より先に進んでいることがプライドを傷つけている要因のため、そこに焦点を当てると他罰的な思考を刺激しかねないからです。
対応例(OK例)
Z世代は、“承認欲求”が満たされることを求めます。
この点を利用し、「あなたは毎日休まず出勤して頑張っていますね。〇〇と△△の課題ができるようになったら夜勤に入ってもらおうと思っていますので、頑張ってください」といった感じで、「これができたら次に進んでもらいます」といった肯定的な言い方がやる気を促進すると思います。
Z世代は、自宅でSNSのネットワークを持っていることが多いです。
仕事が終わった帰宅後に、SNS上で仕事の不満をつぶやくと、見知らぬ人からさまざまな意見をもらうようです。
現実の職場を知らない人からの意見が適切とは思えないのですが、本人は信用することも多いようです。
職場でのアドバイスとネット上のアドバイスが戦う弊害は少なからずありそうですが、このようなイマドキの事情を踏まえながら、上手な育て方を実践していただければと思います。
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【次回予定】第9回「ゆとり・さとり世代の合理的思考について」です。お楽しみに!
「イマドキの新人の離職をつなぎとめる実践編」(イマドキの若者解体新書:新人を看護にコミットさせるワザ_第7回)

谷原 弘之(たにはら・ひろゆき)
川崎医療福祉大学医療福祉学部臨床心理学科 教授
公認心理師・臨床心理士。職場のメンタルヘルスサービスであるEAP(Employee Assistance Pro-gram:従業員支援プログラム)を実践し、病院・企業などを対象にメンタルヘルス研修、復職支援などを手掛ける。看護現場でのメンタルヘルス対策に関しても積極的に支援している。






