個別化の原則

第2回 個別化の原則(バイスティックの7原則)

私たち専門職は、一人で多数の患者さんや利用者に対応しなければなりません。
そのため、経験を重ねるにつれて、次第に「これはこのようなケース」と、類型化した事例に当てはめて対応しがちになっているのではないでしょうか。

しかし、似たようなケースであっても、誰一人としてまったく同じ状況であることはないのです。
同じようなケースだと思いこんで対応した場合、思わぬ失敗や感情のもつれなどをひき起こしてしまうこともあります。

バイスティックの7原則の1つに、「個別化の原則」があります。
個別化の原則とは、利用者一人ひとりが世界で唯一の存在であることを認識し、個別に対応しなければならないという考え方です。
職員は、利用者に対しグループ分けをしたり、レッテルを貼ったりしてはいけません。
先入観や偏見をもたずに接すれば、利用者は職員の意識や関心が自分に向いていると感じられ、よりよい関係性を築きやすくなります。
ただし、一人の人に感情移入して、その人の背景などを含めて抱えこんでしまうのは厳禁です。
あくまでプロの専門職として、業務を遂行するうえで必要な情報をしっかりとアセスメントすることが大切なのです。

例えば看護師であれば、患者さんと最初に行うのはアナムネを聞く・とるということです。
これは単に病歴や薬、食事のアレルギーの有無などを確認するだけではなく、家族構成や緊急連絡先、タバコなどの嗜好品の利用歴や日常生活動作(ADL)の自立度など、幅広い情報を聴取することを含んでいます。一方、ケアマネジャーの場合、利用者や家族の主訴、身体・精神の状態、生活状況などの情報を把握する必要があります。そのための取り組みを「アセスメント」といいます。

ケアマネジャーは、認知症の利用者も多く担当していますが、家族のなかには認知症と診断されると、利用者本人はもう理解できないのだから、何を聞いても仕方がないと思いこんでしまうことも多くみられます。
しかし私たちケアマネジャーは、このような家族の言葉を鵜呑みにして、利用者のアセスメントを家族からの聞き取りだけで済ませてしまってはいけません。

まだ私がケアマネジャーになりたてのころ、家族が「本人はもう何もわからないから」と言って、初対面の私と女性の利用者の前で排泄の失敗や、物とられ妄想などのエピソードを話しました。
そのとき、その利用者が顔を真っ赤にして言葉にならない心の叫びを発したことは、いまでも決して忘れません。

人は、その人なりに生きてきて、いまがあります。
これからも人生の主人公は私たち自身であり、私たちには、それぞれにかけがえのない「大切なこと」があります。
これまでの歩みのなかで、大切にしてきたもの、習慣、こだわり、好きなこと・きらいなこと、大切な人、つながりは、これからも元気で楽しく暮らしていくための力となります。
私たち専門職は、「個別化の原則」を踏まえたうえで、ていねいな情報収集を行うことで、患者さんや利用者の生きる力を支えていくことが重要です。
それが、利用者の尊厳を守ることにつながります。

初出:「透析ケア」2022年28巻2号より一部改変

白木裕子(しらき・ひろこ)
株式会社フジケア取締役社長
看護師、認定ケアマネジャー
日本ケアマネジメント学会副理事長

次回は「意図的な感情表現の原則」についてお話しします。


第1回 バイスティックの7原則の基本的な理解

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