バイスティックの7原則の基本的な理解

第1回 バイスティックの7原則の基本的な理解(バイスティックの7原則)

私は現在、訪問看護、グループホーム等の事業を運営し、介護の現場で高齢者などを支援する業務に従事しています。
若いころは看護師として総合病院の外科に勤務していました。
当時の私は、看護師のもっとも重要なスキルとは医療的処置であり、いかに上手に行うことができるかが大切だと考えていました。
そのため、患者さん一人ひとりの気持ちに寄り添うことには十分に思いが及ばなかったのではないかと考えています。

病棟勤務時代の私は、高齢の人、働き盛りの壮年期の人、幼子をもつ母親など、さまざまな背景をもつ末期がんの患者さんのベッドサイドで日常的に医療を行っていました。
当時は自分なりに看護職として必死に仕事をしていましたが、いま考えると患者さんの気持ちをどれだけ理解し、寄り添うことができたのだろうかと、いまさらながら反省しています。
なぜなら、いまの知識やスキルがあれば、患者さん一人ひとりに対して、よりよい対応ができると考えるからです。

医療から介護の現場に軸足を移して20年以上が経過しましたが、そのあいだケアマネジャーとして、先例のない手探りの状況から高齢者などの自立支援業務に携わってきました。
ケアマネジャーは、単に介護サービスの利用調整を行うだけではありません。
利用者やその家族の生活に対する意向を踏まえたうえで、利用者が抱える問題をあきらかにし、解決に向けた取り組みをケアプランとして提示して、利用者とともに実行していく役割を担っているのです。

つまり、焦点を当てるのは利用者がもっている力や利用者の能力の発揮を妨げている環境要因であり、課題を解決していくのは利用者本人なので、ケアマネジャーができることはとても限られているのです。
そのため、ケアマネジャーは利用者との面接、相談などをとおして問題状況を的確に把握するとともに、十分に利用者を理解しなければなりません。
その際にとても役に立つのが、「バイスティックの7原則」です。

バイスティックの7原則とは、アメリカの社会福祉学者であるバイスティック博士が提唱した対人援助の基本原則であり、福祉や介護の相談機関などのワーカー(支援者)が、相談に来たクライアント(利用者)と、よりよい援助関係を築けるように、援助の基本姿勢や考え方を7つの指針としてまとめたものです。

7つの指針とは以下のようなものです。
①個別化の原則
②意図的な感情表現の原則
③統制された情緒関与の原則
④受容の原則
⑤非審判的態度の原則
⑥自己決定の原則
⑦秘密保持の原則

福祉や介護の対人援助の基本は、「利用者本位」であり、支援者は利用者の基本ニーズを強く認識することで、よりよい関係性を確立することが可能になります。
現在、医療の現場においても「患者さん本位」の考え方が浸透しているなか、患者さんとその家族の援助に際して、同様に活用できる理論であると考えます。

また、この7原則は人材育成の場においても活用が可能であり、介護の分野では新人のケアマネジャーなどの人材育成の手法として事例検討や助言、指導を行うなかで理論を実践しているところです。
看護師にとっても対人援助技術として役立つものと考え、本連載では、この理論の具体的な活用方法について、経験も含めて説明したいと思います。

初出:「透析ケア」2022年28巻1号より一部改変

白木裕子(しらき・ひろこ)
株式会社フジケア取締役社長
看護師、認定ケアマネジャー
日本ケアマネジメント学会副理事長

次回は「個別化の原則」についてお話しします。

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