ミッション・ビジョン・バリューを起点とする看護管理者のための戦略思考

経営視点を育む!
両利きの看護組織をめざすMBA講座:第2回

変化の激しい医療現場では、これまでの「守る力」=知の深化に加え、「攻める力」=知の探索が求められています。
本講座では、MBAの視点から“両利きの組織づくり’’を学び、看護管理の現場で活かせる経営の知恵と実践力を育みます。

変化する環境に対応できる組織づくり

現代の医療環境は、変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字をとったVUCAと呼ばれる状況下にあります1)
さらに、診療報酬改定、少子高齢化による人材不足、そして新たな感染症の脅威など、予測困難な変化が常態化しています。
このような環境下において、看護管理者に求められる戦略思考とは、「病院全体の競争戦略」と「現場の看護実践」を、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)により同じ軸でつなぎ、患者体験価値(Patient Experience: Px)と医療・看護の質を同時に高める意思決定フレームと言えます。

MVVに役立つポーターの競争戦略

ハーバード大学のマイケル・ポーター教授の競争戦略は、次のように病院経営においても重要なヒントとなります。

コストリーダーシップ戦略効率的な病床管理やクリニカルパスの活用徹底により、無駄を省き質を維持するアプローチ。
看護部は在院日数の短縮や業務効率化で貢献する。
差別化戦略特定の高度医療技術や卓越した患者サービスで、他院との違いを打ち出す。
ここでは専門看護師・認定看護師の配置や、質の高いケアの実践が鍵となる。
集中戦略特定の疾患や地域にリソースを集中させる。
地域包括ケア病棟など、特定のニーズに特化した看護体制の構築が求められる。

ポーターの競争戦略は、医療では「患者が得られる成果を、かかった費用に対してどれだけ高められるか」という“患者価値の最大化"を目指す考え方であり、疾患別·受療経路別にケアを統合することが重要とされています2)
また、診療圏の病院間で患者を奪い合うこと(ゼロサム競争)を否定しています。

MVVに役立つ外部・内部環境分析

戦略を立案する際の環境分析(外部・内部)のフレームワークでは3C分析SWOT分析を用います。
以下に3C分析の一例を示します。

Customer(顧客)地域住民の年齢構成や疾病構造の変化、患者が求めるケアの質
Competitor(競合)近隣病院の機能(急性期が慢性期か)、看護師の採用状況
Company(自社)自院の理念、医師・看護師のスキル、設備、組織風土

SWOT分析は看護部の強み・弱み(内部要因)と機会・脅威(外部要因)を整理し、看護部の現状把握と戦略づくりに使う手法です。
クロスSWOT分析は、その4要素を掛け合わせて「【強みx機会】でどんな取り組みを強化するか」「【弱みX脅威】へのリスク対策は何か」など、看護部としての具体的なアクションプランを導くための方法です。
これら3C分析やSWOT分析を活用し、「患者ニーズの変化」と「自院の看護力」のギャップを埋める視点を持つ必要があります。

患者体験価値(Px)の重要性

近年、重要視されているのがPxです。これは単なる「満足度」を超え、患者が病院と関わるすべての接点における経験を総合したものです。
これを可視化するために「ペイシェントジャーニーマップ」()を活用します。
入院前から退院後までの患者の感情や行動を時系列で整理し、不安や不満が生じやすいタッチポイント(接点)を特定します。
例えば、入院手続き時の待ち時間、検査説明のわかりにくさ、夜間のナースコールの対応など、患者視点でプロセスを見直すことで、看護の質を抜本的に改善できます。
Pxの向上は、結果として病院のブランド価値を高め、リピーターや紹介の増加(ロイヤルティ向上)につながります。

 ペイシェントジャーニーマップ
(入院前から退院後までの患者の感情・行動の流れを可視化し、Pxを高めるためのツール)

病棟ことのミッションは、病院のMVVと機能分化(急性期・回復期・慢性期・周産期・小児など)を踏まえ、「どの患者に、どの段階の、どの局面で、どの価値を提供するか」を明文化し、看護実践と教育・研究・マネジメントの方向性を揃えることが重要となります。

Pxは、受診前の情報取得から入院・手術·退院支援・在宅フォローまでの一連のペイシェントジャーニー上の、タッチポイントごとの感情·信頼・理解度で構成されます。
ここから課題と機会を可視化し、看護部主導で改善サイクルを回すことで看護の質が向上していくのです。

***

看護管理者の戦略的な視座とは、現場のリアリティと経営のロジックをつなぐ架け橋となることです。
ポーターの競争戦略論やSWOT分析などのフレームワークは、単なる分析ツールではなく、看護の価値を客観的に証明し、最大化するための武器です。
MVVを起点とし、Pxを高め、短期的な成果と中長期的な成長を両立させる「両利き」のマネジメントこそが、持続可能な病院経営と質の高い看護提供を実現する鍵となるのです。

【次回予定】第3回「看護管理者のための両利き型リーダーシップ」です。お楽しみに!

………………………………………………………

引用・参考文献

1)角田圭雄.戦略的医療マネジメント:VUCA時代を乗り切るMBA視点.一般社団法人日本医療戦略研究センター(J-SMARC)監修.東京,中外医学社,2021,   208p.
2)マイケル・E・ポーターほか.医療戦略の本賀:価値を向上させる競争.東京,日経BP, 2009, 640p.

角田圭雄(すみだ・よしお)
国際医療福祉大学大学院医療福祉経営学 教授
1995年京都府立医科大学卒業・第3内科入局、2002年京都府立医科大学大学院医学研究科博士(医学)取得。2008年市立奈良病院消化器科部長、 2012年京都府立医科大学大学院生体食品機能学講座講師、2013年京都府庁知事直轄統括産業医などを経て、2015年に英国国立ウェールズ大学経営大学院MBA in Healthcare Managementを取得。2023年より現職。

“守る力”と“攻める力”を看護にどう活かすか経営視点を育む!両利きの看護組織をめざすMBA講座:第1回)
上部へスクロール