イマドキの若者解体新書:
新人を看護にコミットさせるワザ_第12回
【架空事例】
バイクを買うことが目標だったAさん
Aさんはバイクが好きで中型免許を持っています。
お金がなかった学生時代は原付で我慢していましたが、就職後は、お金を貯めて400ccのバイクを買うことを夢に、一所懸命働いていました。
休憩時間はバイク関連のWebメディアやSNS/動画コンテンツ、専門雑誌等を見たりして、楽しそうにしていました。
そして就職して3年目に念願のバイクを買いました。
そのときはうれしそうに報告してくれ、休みごとにツーリングに行っていることも教えてくれました。
ところが半年経った頃、突然「仕事に対してやる気がなくなりました。退職しようかと思います」と言ってきました。
あんなに楽しそうにしていたのに、何が起こったのでしょうか。
ワンポイント解説
イマドキの若者世代の中には、看護師になりたいという動機が曖昧なまま看護師になった人がいます。
例えば、「母親が強く勧めるから」とか、「何か資格を取ったほうがいいと思ったから」といった感じです。
その場合、職業人になっても看護師としてのアイデンティティが確立できず、途中で離職を考えることがあります。
Aさんの場合は少しタイプが違いますが、働くアイデンティティが“バイクを買う目標”だったため、目標がなくなるとアイデンティティが揺らぐ場合があります。
これまでであれば、看護師のアイデンティティを獲得させることで、何とか仕事を続けてもらえることが多かったのですが、イマドキの若者は価値観が多様化し、1つの説得方法だけではうまく対応できない事例が発生するようになってきました。
対応例(NG例)
これまでであれば、気持ちをくみつつ、頑張っていることを評価し、看護のやりがいを伝えながら退職を踏みとどまるよう説得していたと思います。
しかしこれだけではNG対応と考えます。
ここで気づいていただきたいのは、Aさんは看護師が嫌だとは言っていない点です。
看護師が特に嫌なわけではないAさんに対し、看護のやりがいを語ったところで、気持ちが変化するとは思えません。
それよりは、Aさんとして、自分が欲しかったバイクを手に入れてしまったために目標がなくなったことに対する悩みを一緒に考えてあげるほうが現実的だと思います。
対応例(OK例)
Aさんに対し、「あなたは400ccのバイクを買うことが夢で、一所懸命仕事をやってきたことは知っていますよ。
せっかくだから、うちの病院でもう少しがんばって、大型免許を取得し、750ccのバイクを買う目標をつくってはいかがですか」と言い、さらなる上の目標を提示してみるのはいかがでしょうか?
■連載を終えるにあたり■
1年間、本連載を読んでいただきありがとうございました。
今年度は、病院や実習指導者の研修への講師依頼が増えました。
イマドキの若者に対し、これまでの指導ではうまく成長させることができなくなっていることは、全国的な悩みかと思います。
いわゆる生まれたときからデジタル機器が身近にあった世代の思考は、これまでのアナログ的な思考とは少し違ってきていることが、その背景にあるようです。
この世代間ギャップから生じるストレスは、指導者側にとっても、新人にとっても大きなものとなる場合があります。
同じ職場で働く仲間として、時代の変化や価値観の変化を受け入れ、心理的安全性に配慮した、風通しのよい職場環境をつくるため、本連載で紹介したような事例をヒントに対応していただければ幸いです。
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「SNS上のコメントを鵜呑みにしやすい若者たち」(イマドキの若者解体新書:第11回)

谷原 弘之(たにはら・ひろゆき)
川崎医療福祉大学医療福祉学部臨床心理学科 教授
公認心理師・臨床心理士。職場のメンタルヘルスサービスであるEAP(Employee Assistance Pro-gram:従業員支援プログラム)を実践し、病院・企業などを対象にメンタルヘルス研修、復職支援などを手掛ける。看護現場でのメンタルヘルス対策に関しても積極的に支援している。




