コロナ禍が看護職のキャリアの考え方に与える影響は?
◇濱田 安岐子(NPO法人看護職キャリアサポート代表)

看護の価値を改めて意識する
 看護管理職の皆さま、今現在も大変な状況でスタッフナースを支えていることと思います。2019年末から始まったCOVID-19感染症の拡大は看護職の働き方に大きく影響を及ぼしました。
 私が専門とする看護職のキャリア支援活動においても、看護職が自分の看護職としての価値を改めて意識していると肌で感じます。また、看護職に対する差別発言や看護職自身の感染リスクを理由とした離職など、これまでとは違った職業的アイデンティティのゆらぎを感じていたように思います。
 当法人では、2020年4月の緊急事態宣言で状況の重大さを感じ取り、これまで有料で実施していたカウンセリングを新型コロナに直接対応している看護職に限定して無料で提供しました(期間限定、終了済)。多くの看護職は「自分のするべきことをするだけ」「自分が感染源にならないように」と働き続けていました。そのためか、カウンセリングを希望する連絡はほとんどなく、こちらから知っている看護師にお声掛けしてお話を伺うことはありましたが、このような状況下では相談したくなるような迷いも生じることなく、ただただ仕事に向き合うという状況になっていたのだと感じます。私のこの活動を知って、管理職の方から「院内で心理サポート制度を作りました!」と嬉しい連絡があり、看護管理職の支えによって、困難に立ち向かう力を持つ看護職集団なのだと感じられました。

パンデミック後の心のありように備えたい
 これからキャリア支援で考えなければならないだろうと思っていることは、新型コロナパンデミックを乗り越えた後、「荷下ろし」によるモチベーションの低下現象や離職の課題です。「荷下ろし」は全力で取り組んでいた仕事をやり遂げた後、精神的重荷から解放された時に生じる燃え尽き状態で、うつ病に移行します。災害支援においても体験したことを語り合い、支え合うことでそういった状況を乗り越えた人たち(まだその最中の人もいるかもしれません)がいたと聞いています。私はできればそれを予防的に介入できないかと考えています。
 看護職が語る機会を作る方法はありそうですが、疲れ切ってとにかく体を休ませたいと思う人も多いのではないかと思っています。
 看護管理職の皆様はスタッフに労いの言葉を意識してかけていることと思います。もしかしたら、上手に受け取って反応することができずに、無表情で返事もしなかったり、そういう言葉に否定的に反応したりするスタッフもいるかもしれません。しかし、それでも絶対にその言葉を受け取っているはずです。自分の頑張りを見てくれている人がいると思うだけで、看護職は頑張ることができます。そういうやり取りにより、このコロナ禍を乗り越えるために必死で働く経験を看護職としての成長の種にすることができる気がしています。

看護学生の就職活動にも影響が
 もう1点、コロナ禍は看護学生のキャリアにも影響を与えています。今、看護師になりたい人が増えていると聞きます。将来、人や社会の役に立ちたいというキャリアプランを模索する子どもたちにとってあこがれの職業になっており、看護学生も、より一層看護職として生きていきたいと気持ちを新たにしたと聞きます。しかし、就職先選びに難航しています。看護学生たちの希望する就職先は人間関係がよく、教育体制が整っていることを条件として考えていることが多いようです。しかも、インターネットの情報ではなく、肌感覚で環境や職場環境を感じ、実際に話を聞いて判断したいという希望です。
 しかし、今は施設内に入ることができません。実習先しか情報がなく、視野が狭くなりがちです。それにより、マッチングに失敗し、早期離職を誘発するかもしれないという危機感があります。最近の若者は文字や動画だけでは本当かどうかわからないということをよく知っている情報活用世代です。また、建前と本音、外向けと本当の姿があることを見極めたいと思う世代です。説明でもメリットとデメリットの両方を知りたいと思っています。そんな看護学生たちにどのような支援が必要なのだろうかと考えます。
 看護管理職の皆様は、このコロナ禍で看護スタッフだけでなく、おそらく他職種も支えながら日々を過ごされていると思います。「管理職が弱音を言うことは許されない」「自分が元気でいなければ」と思いながら必死に自分を支えていると想像します。同じ立場で、互いの気持ちをわかり合える仲間で、支え合いながら乗り越えてほしいと祈るような思いでいます。そして、それ以上に「感謝」の気持ちを伝えたいと思います。

濱田 安岐子

NPO法人 看護職キャリアサポート代表
(看護師・国家資格キャリアコンサルタント)

▼出典元 メディカファン2021年10月 あなたへのエール
~看護管理者として新型コロナウイルスとどう向き合うか~
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