新卒看護師を受け入れるみなさまにお伝えしたいこと
◇森田 夏実(東京情報大学看護学部 教授)

●コロナ禍での学生の実習状況とその気持ち
 看護管理者の皆さま、コロナ禍での医療を多方面でお支えいただき、心より感謝しております。
 看護基礎教育を担当している者として、コロナ禍での学生の学習状況の一端をお伝えしたいと思います。新年度の受け入れにあたってご参考になることがあれば幸いです。
 本学では、臨地実習は3年次に実施します。コロナ禍1年目はほとんどオンライン実習でした。紙上患者を使って、看護の焦点(看護問題、看護診断、課題を含む)を明らかにし、計画を立て、場面を設定して(例えば、生活指導等)ロールプレイで相互関係を体験しました。臨床からは認定看護師などによる講義形式もありました。
 2年目は、教員も臨床もさらに工夫しました。臨床が提供してくださった患者情報を元に、実習室で体験を含めたロールプレイを実施、VTRで臨床側と共有してコメントをもらうなど、大学と実習施設がより積極的にオンライン実習を組み立てていきました。
 私が担当する成人看護学実習のまとめの会や学生のレポートでは、看護観について、臨床実習を経験した学生と類似するkeywordが提示されていました。しかしオンライン実習の感想としては、「ロールプレイでコミュニケーションについて学ぶことができたが、紙上患者だと追加の個別情報を聴くことに限界があり、個別性のある看護過程を展開しにくかった」、「実際の患者さんに関わる練習が少ないので、不安がある」「看護師さんが実際どのように患者に関わっているのかを見ることができなかった」などが特徴的でした。実際の実習でも、学生が受け持ったり関わったりできる患者数は10人にも満たないですが、1人も受け持たないことで、学生の不安は強くなっています。

●新卒ナースがいきいきと働けるために
 卒業直後の学生は、看護技術等すべてに自信がありません。受け入れ時には、新卒者には完璧を求めていないこと、そして、学生とは異なった「看護実践の学び方」があることをお伝えいただきたいと考えています。
 新卒者には、「ナースになった私の看護実践ノート」を作り、毎日経験したこと、患者さんとの関わり、新たな発見、指導を受けたこと、疑問に思うことなどの記録をお勧めします。2年目になると仕事への慣れで、日々の驚きや発見が記憶に残らなくなってしまいます。できなかったことの「反省」だけに焦点を当てるのではなく、1年目の新鮮な驚き・発見を大事に、さらに記録することで、その先の課題も明確になると思います。
 一方、最新の知識(教科書や授業資料)を持っていることは新卒者の強みと言えるでしょう。しかし、大学の授業では教科書のすべてを読んでいるわけではなく、また、教科書の知識が現場のどの部分のことを説明しているのか、知識・理論の結び付けはできていません。臨床の場で、新卒者が“頭”にある知識を“身体”や“こころ”の経験に落とし込んでいくために、指導を担当する先輩ナースへのお勧めは、「新卒ナースは、最新の知識・理論は学びたてのほやほや。それを、私たちに教えてね」というように声をかけて、教科書などを見せてもらってほしいということです。先輩にとってはすでに知っていることでも実践経験をしてから読み直すと、より看護現象を理解しやすくなりますし、一緒に教科書を見ながら、どのように現場経験を知識と結び付けながら経験知を蓄積していくか、を伝えることもできるでしょう。
 これらのやり取りをするにもまず、新人ナースの不安・悩み・喜び・悲しみなど、日々の経験を「聴く」ことから始めていただくことが重要です。聴いてくれる環境があり、未熟な自分を受け入れようとされていることが伝わることで、新人ナースは自分の心の中を「語る」ことができ、過度な緊張から解放され、自分の良いところが発揮しやすくなると思います。
 患者さんに対しては「傾聴」できるけれど、ナース同士や医療チームでは、難しいこともあります。経験を積んだ方でも、自分自身と向き合い、自分自身の声を聴き、可能な範囲で安全な他者と共有する、日常でのこの繰り返しが素敵な人的環境づくりになると思います。

森田 夏実

東京情報大学看護学部教授
桜楓カウンセリング研修会代表

▼出典元 メディカファン2022年3月 あなたへのエール
~看護管理者として新型コロナウイルスとどう向き合うか~
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