●「どうしたらよいか」繰り返し考え、前に進む
遠い日、深夜勤務に向かうために家を出ようとした私、そして、母親である私と離れがたい思いでいる幼いわが子に対し、何気なく口をついて出たのは「患者さんが待っているからね」でした。ぽつりと話しかけた言葉を、子どもはそれなりに受け止めたように思えました。
そこにケアを必要とする方々がいるから。看護師を突き動かすのは、この思いでしょう。
いつも看ながら、感じながら、考えながら、会話や行為をしながら、仲間たちと相談しながら、学びながら、もっと「どうしたらよいか」を繰り返し考え、積み重ねてきたように思います。
コロナ禍という未曽有のパンデミックが始まった時、私たちは宿泊療養所で看護を行う「青空ハウス」という活動を立ち上げました。その時の出来事は一冊の本にもなりました。本の扉の言葉には、「『未知』の恐ろしさに人々が戦慄する中、24時間継続する宿泊療養の看護が開始された。大切なことは何か、よりよく回復する過ごし方、体調の異変への備え、癒しや励まし等。緊張と切迫の中で模索する道のりにあった看護師たちによる実践は、世界中の看護の場に共通して流れるコンパッションとパッションを感じさせてくれる。前向きに進もう」と書き添えています。
●レッドゾーンで隔離されていた患者さん
2020年に新型コロナウイルス感染症の大流行が勃発した頃、私は応援者支援のためにある医療機関に同行していました。その時、ガラス越しに見えた、レッドゾーンの個室病室に横たわっておられた高齢の患者さんの様子がとても印象的でした。
ナースステーションの看護師がガラス越しに説明のための声をかけると、患者さんは、ベッド上で何度か反動をつけて上体を起こそうとされていました。
そして上体を起こし安定したところで、薄い紙のマスク(当時はマスクが入手困難で、何とか準備できた貴重なものであると推測されました)を両耳に掛けながら「これでいいのかね?」というような表情とジェスチャーを、ナースステーション側に向けられました。
ご自分が置かれた状況にもよくわからないことがあまたあろうとお見受けしましたが、そんな中でも看護師の説明に丁寧に応えようとなされており、落ち着いた穏やかな表情でした。当該施設の看護師たちとの日頃の関係に、人同士の深い信頼と安心があることがうかがえました。
あの状況下でも、できることを穏やかにお互いに協力しながら進めることのできる双方のありように、特に個室隔離されているその方の姿を通して、看護の場での、人々の営みの静謐な日常に深い感銘を覚えたのです。
●身体抑制ゼロの向こうに
前職で看護部長として勤務していた頃のことです。ICUでのひもで縛る身体抑制が初めて「ゼロ」になりました。私は嬉しく思い、ICUの看護師長に、明るい声で「すごいですね!」と話しかけました。すると看護師長はうつむき、暗い声で「まだミトンが3件あるのです」と言ったのです。
その様子に驚くとともに、深い感動がこみ上げてきました。目の前にいる看護師長の向こうに、22床のICUの患者さんたち、70名の看護師たちの姿が重なり、胸が詰まりました。ここに至るまで、どんなに努力を重ねてきたことでしょう。
看護が行われている場には、きらきらと輝くものがそこかしこに見つかります。最前線で患者さんのケアにあたる、看護師たちが持つ素晴らしい力に気づくことも多々あります。看護管理者という役割を得て、より良い看護のあり方を求め、スタッフの伸びゆく力を支えていけることは、大きな喜びです。
しかし時には、思いもよらないことも起こります。
そんな時、私自身を振り返ってみると、「誰かに話す」「集中できる何かに打ち込む」「体を動かす」「音楽を聴く」「あえてぼんやりと過ごす」などを試行しているうちに「あっ、そうだったのか」「こうすればいいのかな」と浮かび、「看護は素晴らしい仕事だな」と思い直して、「皆に相談してみよう」等と行動を起こすことができました。
必要なときに必要なことが、望ましい形で継続し実現していく。その大切さを知るほどに、看護管理に携わる方々の尊さを感じ、愛おしさが深まります。具合がよくないとき、体がつらいとき、近くにいて気遣ってくれる看護職がいることは、どんなにか心強いことでしょう。笑顔で進みましょう。
小藤 幹恵
公益財団法人石川県看護協会
会長
▼出典元 メディカファン2023年3月 あなたへのエール ~看護管理者として新型コロナウイルスとどう向き合うか~ 必要なことを、望ましく継続して行う
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