10月のお知らせでご紹介した「様式9」の解説書『改訂2版 看護管理者が知っておきたい「様式9」の基礎講座:2024年度診療報酬改定に対応/施設基準を遵守した勤務表を作成するために』が、ついに刊行!
執筆者を代表して、“学習前に読むとグッとやる気が出る!” 福井トシ子先生からのメッセージをご紹介します。
医療機関の収入源は、診療報酬が9割
医療機関の健全な経営は、安全で質の高い医療サービスの提供に欠かせないものです。
2023年11月に報告された一般病院1 施設あたりの医業収益は、約33.6億円です。
そのうち、診療報酬の収入は約31億円です。
このように医療機関の9割を超える収入源は診療報酬なのですから、看護管理者が診療報酬を理解することの重要性は明らかでしょう。
医療機関の健全な経営に貢献するために、看護管理者には多様な役割が期待されています。
診療報酬関連では、診療報酬請求にかかる「施設基準」を管理し維持する役割があります。
日本の医療保険制度では診療報酬の多くに「施設基準」として要件が細かく定められていることはご存じの通りです。
「施設基準」は、その報酬を算定できる医療機関に関する条件で、設備や診療体制などを要件に定めた基準です。
医療法で定める基準とは別に、診療報酬を算定するために厚生労働大臣が定める基準で、基本診療料・特掲診療料の施設基準等として示され、その報酬を算定する条件の一つとなるものです。
なかでも、看護職員等の配置にかかる入院基本料の施設基準の維持は、看護管理者の重要な役割です。
入院基本料は、入院医療の基本報酬です。
入院基本料とは、基本的な医学管理(指導や説明など)、看護、療養環境の提供を含む一連の費用を評価したものです。
入院基本料は、医業収入の約66%(2023年実施の第24回医療経済実態調査報告の集計より)といわれていますから、看護管理者は、特に入院基本料にかかる施設基準について精通することが欠かせません。
適時調査では「様式9」が特に重要
施設基準の要件を満たす医療機関は、地方厚生局に届出をし、受理されて、診療報酬を得られることになります。
届出内容が遵守されているかどうかについては定期的な「適時調査」がありますので、看護管理者の皆さまも、調査の準備や調査時に立ち会うなどして、対応されていることと思います。
調査の結果、不適切な場合は返還命令が出されます。
特に、入院基本料の要件となっている看護配置の管理に不備があった場合は、多額の返還となります。
入院基本料にかかる返還命令があったというニュースに触れるたびに、残念な思いがします。
「適時調査」では、入院基本料にかかる看護職の勤務計画・勤務実績と看護職の配置等を確認する届出書類「様式9」が、特に重要な点検項目となっています。
地方厚生局より公開されている「適時調査」の指摘事項では、月平均夜勤時間数の誤り、看護師比率の不足、看護日誌、会議記録などとの不整合、他病棟勤務での計上の誤りなど多岐にわたっています。
また「適時調査」では、チームの名簿、看護職の経験年数、業務マニュアル、研修実績、診療計画書、カンファレンス記録など、届出要件に関する詳細な根拠資料が求められ、日ごろからの確認と整備が不可欠です。
看護管理者が日々の看護実践と施設基準のかかわりについて理解を深めることにより、「適時調査」におけるリスクを回避することができ、さらに質の高い看護実践と病棟運営、病院経営に生かすことができます。
多くの医療機関では、看護師長職が勤務計画を作成し、実績の管理をしていることと思います。
看護師長は、どのようなタイミングや方法で、勤務計画作成方法を学んでいるのでしょうか。
勤務計画作成ガイドライン(勤務計画作成基準)は整っているでしょうか。
勤務実績と密接に関連している「様式9」については、どのような方法で学び、人的資源管理に生かしているのでしょうか。
「様式9」を人的資源管理に生かすには
看護職員にとっては、勤務計画表は、“ 永遠のベストセラー” といわれるくらい関心の高いものであり、勤務希望を叶えてほしいものだと思っています。
しかしながら、この「様式9」に必要な要件を遵守することが、経営にとってはとても重要なのです。
「看護職員の希望を叶えた勤務表にしたいが、なかなかそうもいかない」という理由に、この要件の遵守があります。
したがって、この要件は看護管理者だけが知っていればよいものでもありません。
看護職員の誰もが理解していることが必要です。
理解の深さは経験年数や職位によっても変わってくるものだと思いますが、医療機関に勤務する看護職員の誰もが知っておくべき事項です。
人的資源管理は、今や人材を「資本」としてとらえ、その価値を最大限に引き出すことで、事業(ここでは看護)の価値向上につなげる「人的資本経営」へと変化しています。
人的資本への投資がますます重視されていきます。
医療機関は、人的資源に投資するにも、公的価格で定められて得た収入を人的資源に投資するという関係性にあるのですから、この施設基準に関するしくみを看護管理者が理解することに加え、日々の勤務計画に関連する事項を看護職員の誰もが理解すべきことは、間違いのないことです。
全レベルの管理者が系統的に学べる
そこで、施設基準を正しく理解している看護師・看護管理者の育成が急務となっています。
しかしながら、これらを系統的に学習する機会は多くはありません。
認定看護管理者教育課程のファーストレベル、セカンドレベル、サードレベルでも、「施設基準」に特化して学ぶ時間数は限られています。
また、診療報酬に精通した看護部長や副看護部長、また看護師長が退職したので、引き継ぎに困っているという話もよく聞きます。
このような、さまざまな状況へ適切に対応することを目指し、本書が完成しました。
2年ごとの診療報酬改定に適切に対応できる看護管理者であるために本書を活用していただきたいと思います。
また、認定看護管理者教育課程の各レベルで学ぶ「資源管理」の副読本にしていただくことを推奨します。
本書は「施設基準管理士」らによって執筆されています。この資格を持つ看護職も徐々に増えています。
本書を活用し、質の高い看護実践と病棟運営、病院経営に貢献できることを祈念いたします。
福井トシ子
国際医療福祉大学大学院 教授・副大学院長
公益社団法人日本看護協会 前会長
目次を見る
【第1章 施設基準の基礎知識】
1 施設基準のポイント
2 行政指導の意味
【第2章 看護職に関係する施設基準】
1 看護職に関係する施設基準の項目
2 入院基本料の要件
3 入院基本料の届出に関係する様式
【第3章 勤務表と施設基準のルール】
1 適切でよりよい看護を実践する看護体制・看護配置と勤務表の作成
2 勤務表作成上の留意事項(1)労働基準法・就業規則の遵守
3 勤務表作成上の留意事項(2)勤務表作成にかかわる前提知識
4 勤務表作成上の留意事項(3)看護要員配置数のルール
5 勤務表作成上の留意事項(4)夜勤要員数の管理
6 勤務表作成上の留意事項(5)運用
【第4章 様式9の作成上のルール:確認と検証】
1 様式9の書式
2 様式9の届出に関する基本情報と記載方法
3 配置数は勤務時間数で確認
4 勤務実績表の作成ルール
5 看護要員の数および入院患者の数
6 月平均夜勤時間数
7 加算に関する配置
8 看護補助者の配置
9 主として事務的業務を行う看護補助者
10 様式9では確認できない看護の配置
11 複数による確認体制の整備
12 様式9・勤務実績表作成の具体例
2024年度診療報酬改定に対応/施設基準を遵守した勤務表を作成するために
改訂2版 看護管理者が知っておきたい「様式9」の基礎講座
2024年度診療報酬改定に対応した看護管理者必携の「様式9」解説書。基本と盲点を理解し、煩雑な書類作成や勤務表管理をスムーズに。セミナー質疑応答をもとにした実務直結のQ&Aも追加収録。適時調査でのリスク軽減や勤務管理の精度向上につながり、病院経営の健全化にも役立つ一冊。
国際医療福祉大学大学院 教授 副大学院長/公益社団法人 日本看護協会 前会長 福井 トシ子 監修
一般社団法人日本施設基準管理士協会 編著
メディカ出版 2024年11月刊行
B5判 160頁 3,080 円(税込)
ISBN:978-4-8404-8534-0