ケアする人はすでに「ケアされる人」になっている
◇安酸史子(関西医科大学 看護学部 教授)

●コロナ禍の看護管理者
 新型コロナウイルスの第1波から第7波の渦中である現在まで、予測しにくい事態が次々と押し寄せ、収まったと思ったら次の波が押し寄せてくる状況が続いています。看護管理者として、自身の経験知での対処が困難な状況下でどう行動するかを、常に問い続けられてきたことと推測します。2年以上にわたり、このような事態の最前線に立ち続けることの緊張と心労はいかばかりかと思います。しかもまだ終わりが見えない状況です。
 変異を繰り返すことで、新型コロナウイルスの感染力は強くなってきています。自施設の看護師を含めスタッフ全員が感染しないよう対策を十分にとってきたつもりでも、ほんの少しのほころびから感染者が出る、濃厚接触者と判定される、時にはクラスターが発生してしまう、たちまち現場が人手不足になり、医療逼迫に陥る。そうなると医療者であっても気持ちに余裕がなくなるので、いろいろなところで人間関係がぎくしゃくしてきます。

●看護の原点「ケアリング」
 多重課題に対応することが日常である看護管理者であっても、新型コロナウイルスにより突き付けられた管理者としての力量のためされ方は、尋常ではなかったでしょう。そうした看護管理者の方々に私が贈りたいのは、看護の原点ともいうべきケアリングについての言葉です。
 ノディングスはその著書『ケアリング』で、ケアする人の意識の特徴として「専心没頭」と「動機の転移」を挙げています。「自然なケアリング」と「倫理的なケアリング」という概念も挙げており、私たち看護師は自身が持っている「自然なケアリング」とともに看護師としての倫理的な自覚のもと「倫理的なケアリング」を発揮して仕事をしています。
 「葛藤は、私たちの専心没頭が引き裂かれ、何人かのケアされる人が、私たちに両立しない要求をしたときに生じる。もう一つの種類の葛藤は、ケアされる人の望むことが私たちが彼にとって最善と考えるものでないときに起こる。更にまた、他の種類の葛藤が、私たちの荷が重すぎたり、私たちのケアリングが『心配と重荷』に転じた時に生じる。こうした葛藤のどれもが、罪を引き起こしかねない。更に、ケアされる人が私たちにしてほしいと思うものを、十分にしてやれないとき、あるいは、私たち自身はもたらそうと意図しなかったような結果をもたらした時に、私たちは罪の意識を覚えるかもしれない。葛藤と罪とは、ケアリングの避けられない危険性であり、こうした考察は、勇気についての検討を示唆するだろう。」1)と、ノディングスは、ケアリングの意識が高ければ高いほど「葛藤と罪」の意識を感じやすいことについても記載しています。
 そして、勇気の重要性について「ケアリングでは、勇気について二重の必要がある。私は、自分が関わっていたことを引き受ける勇気を持たなければならない。そして、ケアリングを続ける勇気を持たなければならない。」2)と述べています。

●ケアリングを続ける勇気
 今回のような過酷な状況の中で、ノディングスも述べているように看護の原点ともいうべきケアリングの意識を強く持っていればいるほど、さまざまな葛藤や罪の意識を感じることがあったのではないかと思います。良かれと思って決断したことであっても、否定的な答えが出たことだってあったでしょう。その時に、その現実から目を背けないで、自分が関わっていたことを引き受ける勇気が必要であり、なおかつそれでもケアリングを続ける勇気を
持って歩み続けることが看護管理者には求められています。
 最後にケアリングが「心配と重荷」になった時には、ケアする人はすでに「ケアされる人」になっているとノディングスは述べています。看護師は役割意識が強いため、ケアリングが「心配と重荷」だとは思いたくありません。そのため、頑張り続けることが多いですね。でも、人は十分にケアされていなければケアする人として行為し続けることは難しいのです。ケアを受けることでエネルギーを充電して、また明日からケアする人として最前線で働くことができます。自分は今、ケアされることが必要だと自覚できることも能力の一つです。人との接触が難し
い今のような時には、セルフケアリングで自分を労わることも一つの方法です。時には自分を甘やかし癒してあげましょう。

引用・参考文献
1)ノディングス・N.立山善康ほか訳.ケアリング:倫理と道徳の教育―女性の観点から.
 京都,晃洋書房,1997,29-30.
2)前掲書1.61.

安酸 史子

関西医科大学
看護学部 教授

▼出典元 メディカファン2022年9月 あなたへのエール
~看護管理者として新型コロナウイルスとどう向き合うか~
ケアする人はすでに「ケアされる人」になっている
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