なぜ経営マネジメントが必要なのか

第1回 なぜ経営マネジメントが必要なのか(成果を上げるBSC活用術)
BSCは医療機関で多く使われる経営マネジメント手法

日々の業務の改善活動にはさまざまな指標があるのは、みなさんご存知と思います。

たとえば、目標を管理する手法(経営マネジメント)として「MBO(Management by Objectives):目標による管理」や「KPI(Key Performance Indicator):重要業績評価指標」、「OKR(Objectives and Key Results):目標と主要な結果」などがよくつかわれます。

この連載では、このような経営マネジメント手法のなかでも、特に医療機関(とりわけ看護部門)で活用されることの多い「BSC(Balanced Scorecard)」について、その目的と活用方法について解説していきます。

BSCとは、看護管理者が組織をよりよくし継続していける「仕組み」です。

よりよい組織を目指すための計画立案は当たり前?

多くの組織で理念の実現に向けたさまざまな計画を立てていると思います。
組織により「経営計画」や「中長期計画」など、いろいろな名前があると思います。

近年、診療報酬の中で地域医療体制確保加算のように特定の改善計画を立てることが加算算定の要件になっていたり、病院機能評価等の第三者による組織の評価の中で経営計画を確認される機会があったり、経営計画を自院の取り組みとしてホームページ等で公開する等、法人として経営計画を立てることが医療機関にとって当たり前になっています。

しかし、せっかく計画があっても絵に描いた餅では計画の意味がありません。計画に基づいた結果が現れるまでには、日々の業務の中でどのように改善していくかという中長期の積み重ねが大切です()。

図 結果を出すには日々の改善が重要

ところが、「計画はあっても日常的な業務の中で何を行わなければならないか具体的に示されていない」「計画通りに進めるために意識付ける仕組みがないので改善が続かない」と言う具合に、日々の業務に計画が反映されず、実行されていない組織は少なくない印象があります。これではせっかく立てた計画も意味がありません。

計画と日々の業務との関係性を意識しよう

ここであらためて、計画と日々の業務との関係性について確認しておきましょう。

日々の業務は電子カルテの操作方法や感染症対策のルールなど、マニュアル等としてルール化されている組織が多いと思います。
マニュアルには毎日行わなければならないことや、職種ごとの仕事のルールが書いてあるので、目の前の仕事をこなしていくには十分な情報です。
ということは、計画そのものや、BSCをはじめとした計画を実行し結果に導くためのマネジメント手法がなくても、病院として組織が存続し続けることは不可能ではありません。

しかし、マニュアルはあくまで定型化された「やらなければならないこと」であって、よりよい組織になるための計画という改善行動を促すものではありません。
さらに、時代の流れに伴い、必ずしも今あるマニュアルが正解であり続けるとは限りません

「今はできていないが将来なりたい組織の姿を目指して取り組むべき内容」はマニュアル化されるものではなく、改善していく努力が必要になるため、意識して取り組まなければ継続されず、結果に結びつきにくいのです。

BSCは日々行動し、実行するための仕組み

計画と日々の業務はまったく異なるものではありません
例えば理念が「最新の医療技術を加味して最善の治療を目指す」となっており、計画にも同様の文言があったのであれば、マニュアル等の日々の業務の見直しを行わなければなりません。
つまり、年度の初めに経営幹部から計画について提示された際には、ただ話に耳を傾けるだけではなく「日々の業務では何にどのように影響するだろうか」という視点を持つことが必要です。

残念ながら、計画と日々の業務、そしてBSC 等の経営マネジメント手法が別々のもののように扱われている病院は少なくありませんので、特に管理職のみなさまは「それらはすべてつながっている」という意識を持って「この業務は、理念に立ち返るとこういうことを意味する」「この目標に則ると、日々の業務の見直しが必要になる」など、職員のみなさまに声をかけていきましょう

BSC 等の経営マネジメント手法は、組織のありたい姿(理念)を実現するための計画について、日々の業務を行いながら実行し続けるための仕組みです
では、どんなマネジメント手法でも共通の課題となる、職員の意識を目標に向けるために必要な「目標を組織で楽しむ」という要素について、次回、3つに分けて解説していきましょう。

初出:「ナーシングビジネス2023年秋季増刊」より一部改変

次回「目標を組織で楽しむための3つのポイント」は6月上旬配信予定です。
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上村 久子
株式会社メディフローラ代表取締役
看護師・保健師・心理相談員

東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許取得後、看護師実務の傍ら慶應義塾大学大学院にて企業人事・組織論を勉強。大学院卒業後、医療系コンサルティング会社にて急性期病院を対象とした経営改善に従事。 現在は病院経営アドバイザーとして、医療機関所有データ(看護必要度データ、DPC データ等)を用いた病院経営に関するアドバイスやデータ分析研修会、診療報酬勉強会、組織活性化研修等の人材育成の研修・教育サービスを提供中。
専門は、院内データを活用した病院経営、看護マネジメント、人材育成。自らの臨床経験とデータ分析能力を活かし、大学病院からケアミックス病院まで病院規模や病院機能を問わず幅広く活動している。


ナーシングビジネス2023年秋季増刊
看護管理者のためのBSC(バランス・スコアカード)活用術
見よう見まね・我流から脱却する!

上村 久子 編著
メディカ出版 2023年11月刊行
B5判 156頁 3,080円(税込)
ISBN: 978-4-8404-8085-7

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