看護管理者は日々多くの業務に目配り・気配りが必要です。国の施策や看護界を取り巻く状況、日々の働き方や組織づくりに関連した情報など、看護管理者が知っておきたい最新ニュースをご紹介します。
2025年1月は看護の可能性が広がるニュースが多くありました。
今回は雑多になってしまいますが、3つのトピック(①「TOKYO DIGICONX」 ②ふくしまベンチャーアワード2024 ③国際看護師団体ナースターミナル)をとりあげていきます。
①「TOKYO DIGICONX」出展:VR 看護-XRNurseEdu
2025年1月9~11日、XR・メタバース等産業展実行委員会が主催する「TOKYO DIGICONX」(会場:東京ビッグサイト)に足を運んできました。
このイベントは、XRやメタバースなどの最新技術に特化した展示会です。
看護分野とは一見異なる世界のように思えます。
しかし、そこで出会った一人の看護師、XRNurseEdu 代表 宮坂健太朗氏の取り組みに、筆者は大きな可能性を見出しました。
VRやARを活用した看護教育の最前線で活躍する宮坂氏は、海外の看護大学との共同研究や、聴覚障害者向けARグラス、助産ARなど、革新的な教育ツールの開発に取り組んでいます。
同イベントで筆者が実際に体験した緑内障体験VRはとくに印象的でした。
たとえば、看護師が緑内障の患者やその家族に対し「徐々に視野が狭くなっていく」という症状を具体的に説明する際、言葉だけでは伝えきれない部分があります。
しかし、緑内障体験VRを使用すると、実際に視野が徐々に欠けていく体験ができ、さらには現実の空間でも視野欠損のある状態を体験できます。
これにより、「階段の端が見えにくい」「物にぶつかりやすい」といった具体的な危険性や、必要な環境整備について、より深い理解が得られます。

看護師は、患者により良いケアを提供するため、常に新しい知識や技術を学び続けています。
テクノロジーの進化は、時としてわれわれの想像を超えるスピードで進んでいきます。
筆者は、こうした新しい技術をうまく取り入れることで、より効果的な患者教育や、スタッフ教育が可能になることを感じてきました。
②ふくしまベンチャーアワード2024:最優秀賞受賞看護師-Picto Care
2025年1月9日、福島県が主催する「ふくしまベンチャーアワード2024」の最終選考会で、看護師でありながら起業家として活躍する田中亜利砂氏が最優秀賞を受賞しました。
田中氏は株式会社Picto Careの代表取締役として、医療福祉分野における革新的なソリューションの開発に取り組んでいます。
東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故から力強く復興を遂げつつある福島県は、「スタートアップの地ふくしま」として、新たな挑戦者たちを積極的に支援しています。
その象徴的なイベントである同アワードでの受賞は、医療者による起業の可能性を大きく広げる出来事です。
田中氏の革新的な取り組みは、日々の看護・介護現場が抱える課題に真摯に向き合った結果から生まれています。
たとえば、われわれ看護師が日常的に行うADL評価は、これまでは評価者の主観や経験に依存する部分が大きく、またその記録や共有にも多くの時間を要していました。
田中氏は、このプロセスにピクトグラムとAI技術を組み合わせることで、より客観的で効率的な評価システムを構築しました。
その結果、ケアの「見える化」を実現し、より質の高い介護サービスの提供を可能にしました。

現在、埼玉医科大学の博士課程に在籍しながら研究を続ける田中氏は、2024年に学生起業家として起業し、研究成果を社会に還元したいという強い思いで、日々奮闘しています。
今回の最優秀賞とグロウイングクラウド賞のダブル受賞は、その努力とビジョンが高く評価された証といえます。
看護職は、患者や利用者の生活の質の向上に日々真摯に向き合っています。
しかし、時として現場の課題に対して、新しい視点やアプローチが必要となることもあります。
田中氏のように、看護の専門性を活かしながら、テクノロジーを駆使して問題解決に取り組む姿勢は、私たちに新たな可能性を示してくれます。
③国際看護師団体ナースターミナルが法人化
2025年1月22日、ダイヤモンドプリンセス号での新型コロナウイルス感染症の集中治療や、国境なき医師団での活動を通じて知られる国際看護師・佐藤太一郎氏が運営するコミュニティ「ナースターミナル」が、一般社団法人として新たなスタートを切りました。
「ナースターミナル」は、国外の看護師免許を取得し国内外で活躍している日本人看護師たちをつなぐ場であり、看護師同士による国際的なネットワークの構築を目指した意欲的な取り組みを進めています。

「ナースターミナル」は毎年、看護師国際サミットを開催しています。
このサミットでは、各国の医療制度や看護師の働き方に関する情報交換が行われるほか、語学教育やスキルアップ支援、さらには国際的な課題の共有など、幅広いテーマについてディスカッションが繰り広げられています。
それだけでなく、海外で活躍する看護師たちが抱える固有の課題にも目を向けています。
たとえば、海外勤務中に日本に残した家族をどうサポートするかという問題に対し、看護師同士が助け合える仕組みづくりを進めるなど、幅広い実務的な支援も展開しています。
こうした活動から筆者が感じるのは、佐藤氏が「看護師」という仕事を現場だけに留めず、より大きな視野でとらえ、課題を見つけ出し、それを解決するために挑戦しているということです。
その姿勢は、看護の本質をあらためて考えさせてくれるものであり、各自の持つ看護の在り方に新たなヒントを与えてくれます。
まとめ
今回紹介した看護師は、目の前の課題をアセスメントし解決策を立てて挑戦していく、まさに“看護”を行っています。
看護管理者の皆さん、皆さんの職場にも、新しいアイデアや改善案を持つスタッフがいるかもしれません。
そうした声に耳を傾け、時にはその挑戦を後押しすることで、職場全体としての成長や、医療・看護そのものの発展につながる可能性が広がります。
「挑戦する看護」を支える環境づくりは、私たち看護管理者にとっても重要な役割の一つではないでしょうか。
この連載では、これからも看護師の新しい挑戦や取り組みをお届けしていきます。
ぜひこれを機に、日々の実践に新たな視点を取り入れるきっかけとしていただければ幸いです。
おまけ:NHK“朝ドラ”で看護師が主人公に!
筆者の趣味にほんの少しお付き合いください。
日本のナイチンゲールと呼ばれる大関和(おおぜきちか)という人物はご存じかと思います。
黒羽藩の家老の娘で、ナイチンゲールの孫弟子として日本の看護の歴史を牽引してきました。
2026年春から放送されるNHK連続テレビ小説は、彼女がモチーフとなったストーリーだそうです。
看護の挑戦を楽しく学べるチャンスです。
気になる方はチェックしてみてはいかがでしょうか。
引用・参考文献
1) TOKYO DIGICONX ホームページ.https://xr-meta-biz.tokyo/(2025年2月10日閲覧)
2) Picto Care ホームページ.ふくしまベンチャーアワード2024 で最優秀賞を受賞しました!〔2025 年1 月25 日〕.https://www.pictocare.com/category/blog/(2025年2月10日閲覧)
3)一般社団法人ナースターミナル ホームページ.https://nurse-terminal.com/(2025年2月10日閲覧)
4)NHK ホームページ.https://www.nhk.jp/g/blog/7tg8krt-27/(2025年2月10日閲覧)

坪田康佑(つぼた・こうすけ)
慶應義塾大学看護医療学部卒。Canisius College(米国ニューヨーク州)卒/MBA取得。無医地区に診療所や訪問看護ステーションを開業し、2019年全事業売却。国家資格として看護師・保健師・国会議員政策担当秘書など、民間資格ではメディカルコーチ・M&Aアドバイザーなどを持つ。
現在は国際医療福祉大学博士課程在籍、看護師図鑑(https://cango.blog/)を運営。
▼出典元:Nursing BUSINESS 2025年5月号
