看護管理サポート:メディカ出版

看護の働き方改革:取り組みを“実感できる効果”につなげる3つの視点

『つながる看護管理 VOICE』第4回目アンケート結果

前回の調査(「辞めたい」の奥にある声に耳をすます—離職防止に取り組む現場のリアル)から、今回は一歩踏み込み、「取り組みによって、現場の働きやすさは変わったのか」を探ります。
テーマは、「勤務の柔軟化」と「タスクシフト/シェア」。
多様な働き方や業務再分担が求められるなか、制度を「導入する」ことと「効果を実感する」ことのあいだには、少なからぬギャップがあるようです。
今回の皆様の声から、現場での取り組みにともなう工夫や葛藤を共有し、‟働きやすさにつなげるためのヒント”を読み解きます。

現場の肌感:「導入」は進むが、「運用」はなお課題

勤務柔軟化やタスクシフト/シェアの取り組みは、今や多くの医療機関で進められています。
今回の看護管理者へのアンケートでも多くが、勤務柔軟化やタスクシフト/シェアに「取り組んでいる」(それぞれ60%、75%)と回答しました。
さらに、日本看護協会の大規模調査結果(2025年公開)1)でも、看護師から他職種へのタスクシフト/シェアを「実施している」と答えた病院は70.6%にのぼります。

施設の勤務柔軟化とタスクシフト/シェアの取り組みについて (複数選択可)割合
A: 勤務柔軟化(多様な働き方のしくみの推進)に取り組んでいる1260%
B: タスクシフト/シェア(他職種への業務移管・共同化)に取り組んでいる1575%
C: 現在、いずれかを導入に向けて検討中である210%
D: いずれも行っていない15%
E: わからない/判断できない00%

*回答数20件

*複数回答のため、合計は100%を超える(以下同じ)

 勤務柔軟化は「効果あり」6割、でも“平等ではない現実”も

勤務柔軟化の効果について、「ある程度効果がある」と答えた管理者が60%にのぼりました。
一方で「あまり効果を感じない」「まったく効果がない」との声も35%あり、制度導入だけでは不十分な実態も感じられます。

「勤務柔軟化」の“働きやすさ”への効果割合
1. 非常に効果がある00%
2. ある程度効果がある1260%
3. あまり効果を感じない525%
4. まったく効果がない210%
5. 実施していない15%
 勤務柔軟化で効果を感じた取り組み

多く挙がったのは、順に

  • 育児・介護など個別事情への配慮
  • 希望勤務の聞き取り・シフト反映
  • 夜勤体制の見直し など

でした。

「勤務柔軟化」で、少しでも効果を感じた取り組み (複数選択可)割合
A: 希望勤務の聞き取り・シフト反映1155%
B: 短時間正職員制度・時短勤務の導入 840%
C: 時差出勤・フレックスタイムの導入315%
D: 夜勤体制の見直し(回数制限、免除・専従、2交代制の導入 など)1050%
E: 有給取得率の向上 840%
F: 育児・介護など個別事情への配慮1365%
G: 部署間の異動(配置転換)の柔軟化630%
H: リモート業務の一部導入(教育・会議など)15%
I: その他(自由記述)15%
J: 実施していない15%

I: その他(遅出勤務の導入)

 勤務柔軟化の成功例・失敗例とその要因

しかし、制度を「入れた」だけでは現場は変わらない。
今回の自由記述では、「制度はあるが、現場がまわらない」「負荷が管理者に集中する」などの声も目立ちました。
制度を現場でどう回すか。この「運用のしんどさ」が、管理者に重くのしかかっている実態が見えてきます。

「勤務柔軟化」の背景や、成功・失敗の要因 (自由記述)
・遅出勤務を導入したが、結局は午前中の人員が不足するため、あまり活用されていない。(主任/400床以上)
・事務方がなかなか柔軟に対応してくれない(副看護部長/400床以上)
・重なりがあり、希望通りの休みが取れない(師長/400床以上)
・夜勤2交替であるが、全員は無理で、部署によっては夜勤回数に差が出る。また、夜専も深夜だけがあるため、準夜回数が増えるスタッフがいる(師長/400床以上)
・内視鏡やIVRを担う放射線科です。平日夜間及び祝土日は救急外来で勤務し、緊急症例は一人で対応していましたが、年に10例程度ですが重症例で看護師一人で対応する事が難しいケースがありました。それにより若手看護師から不安の声と退職を希望するスタッフもいましたが、放射線科看護師の二人二交代を導入して、若手看護師の精神的にも心理的にも安心出来る環境が整いました(師長/400床以上)
・時短勤務や夜勤のシフトの希望優先など行うことで、スタッフのライフワークバランスが改善している印象がある。一方で独身のスタッフや希望が特にないスタッフへはやや負担増や不公平感を感じている可能性もある(主任/100~399床)
・施設としては時短、時間休取得など取り組んでいるが、実際はあまり推進していない。多様な形態でというものの、時短やパートだと担当業務が限られるなどの課題も多い。取り組む必要があるため、時短やパートを受け入れるが、実際は夜勤がやれる常勤を強く希望するため快く受け入れている感じではない。時短やパート、時間休などは受け入れているが、限られた時間でのメンバーとなるため、その後の業務や看護配置の1と数えにくいことなどからそこまでの効果は感じられない。ただ、限られた時間でも働いてくれるぶんには非常に助かっている(師長/100~399床の病院)
・家庭と仕事は両方両立させてこそ、勤務に集中できる(師長/100床未満の病院)

■タスクシフト/シェアは効果ありと、感じないがほぼ同率

勤務柔軟化に比べると、取り組む施設が多かった割に、効果には懐疑的でした。

「タスクシフト/シェア」の“働きやすさ”への効果割合
1. 非常に効果がある15%
2. ある程度効果がある735%
3. あまり効果を感じない840%
4. まったく効果がない15%
5. 実施していない315%
 制度導入は進むけれど…

看護師の連携先として効果が実感されていたのは看護補助者(65%)。
次いで、薬剤師(30%)や医療クラーク(25%)、リハビリ専門職(25%)が続きました。

「タスクシフト/シェア」で、少しでも効果を感じた連携相手・業務内容 (複数選択可)割合
A: 医師(診療補助、指示受けの明確化など)15%
B: 薬剤師(服薬指導、持参薬確認、注射薬準備など) 630%
C: 臨床検査技師(患者移送、採血・検体採取、心電図測定、検査説明など)420%
D: 診療放射線技師(患者移送、血管確保、検査説明など)315%
E: 臨床工学技師(器械出し、人工心肺装置管理など) 420%
F: リハビリテーション専門職[PT・OT・ST](患者移送、食事介助、家屋調査など)525%
G: 看護補助者(清潔ケア、環境整備、配膳・下膳など)1365%
H: 医療クラーク(記録補助、書類整理など)525%
I: その他(自由記述)00%
J: 実施していない525%
 押しつけでなく、「対話」と「教育」のプロセスが重要

この制度を進めるには「どの仕事を誰が、どう担うか」という合意形成と再設計が不可欠であることが、自由回答からみえてきます。

「タスクシフト/シェア」で効果を感じた(または感じなかった)背景や、成功・失敗の要因 (自由記述)
・看護部から業務を押し付けられていると誤解が生じ始めていたので、その時期に改めて何のためのタスクシフトなのかのメンタルモデル共有を行った。移譲する相手に対しての教育計画、企画、教育を行う準備が必要であり、その準備のために一時的に看護部負担増が生じた(副看護部長/100~399床)
 業務の分担、“任せたくても任せられない”

看護補助者や薬剤師など、受け手となる職種の不足も課題として浮上しています。
また、「責任の所在が曖昧になる業務は、結局看護師が担う」という声もあり、安全性とのバランス調整が悩ましい現状もあります。

「タスクシフト/シェア」で効果を感じなかった背景や、失敗の要因 (自由記述)
・看護助手も不足しているので、あまり頼めない(主任/400床以上)
・看護補助者の不足(師長/400床以上)
・薬剤師へのタスクシフトをしたいが、なかなか進まない(副看護部長/400床以上)
・タスクシフトシェアは、患者に関わることは責任の所在を問われるため、結果、看護師が行うのが最善と判断され、他職種への業務シフトに至っていない(主任/100~399床)
・ケアワーカー深夜を中央管理することで夜勤看護師の負担は少し軽減しているが、日中不在やパートのみになるため、日勤看護師の負担は増えているように感じる。技師は患者移送もしなく、病棟スタッフの負担は変わらない(師長/400床以上)
・どのセクションでもマンパワー不足で、タスクシフトやシェアがスムーズに進んでいかない(師長/100~399床)
・薬剤部、医事課間でのタスクシフトがなかなか進まず難渋している。看護師でも退院支援などは専従の看護師を置くなど取り組みたいが、他部門との相互理解や仕事量の明確化がされていないため、仕事の押し付け合いになってしまっている(師長/100~399床)
 “協力的な他部門”が前進の鍵に

しかし、そんななかでも前向きな事例もあります。
他部門からの積極的な提案をもらえたことが、スムーズな連携が進む「成功の鍵」だったという事例も寄せられました。

「タスクシフト/シェア」で効果を感じた背景や、成功の要因 (自由記述)
・検査科の採血業務は非常に助かっている。また、救急外来での検査技師による生理検査実施や検査搬送、環境整備は非常にありがたく効果を感じた。臨床工学技士は手術室内業務でスコピストや麻酔支援など複数の業務を行っていて、今後も手術器械展開や器械カウント、室内業務など業務拡大していく予定。課長がタスクシフトなどに非常に協力的で、自分たちが楽になるということではなく病院全体の利益や患者利益を考えて行動したり、組織的な価値観で物事を進めていくため、非常にスムーズに進んだ。看護サイドからの依頼ではなく、臨床工学部からの実践可能な業務を提案してくださり、非常に意欲的に取り組みが検討された。リーダーのあり方や説明の仕方、ボトムアップ方式での意見の吸上げからの実践が素晴らしかった(師長/100~399床)

このように、「タスクシフト=仕事を減らす魔法」ではないという理解と、「誰が、なぜ、どのように」その業務を担うかを、職種を超えて対話しながら見直す力こそが、制度を運用可能にする鍵なのかもしれません。

編集室より:取り組みを“実感できる効果”につなげるには?

勤務の柔軟化も、タスクシフト/シェアも、導入自体はもはや珍しくありません。
けれど「制度はあるけれど、うまく使いこなせない」という切実な状況です。
看護管理者たちは、制度を生かすためにさまざまな困難と向き合っています。
「不公平感の調整」に悩み、「他職種への説明や教育」に時間をとられ、「制度を動かすには、まずは看護部が負担を背負わざるをえない」という運用の地道なしんどさがあります。
それでも、制度が機能している現場には、いくつかの共通点がありました。

① 「なぜこの制度を進めるのか?」という共通認識がある
② 一方的に仕事を「振る」のでなく、「誰が、なぜ、どの業務を担うのか」をすり合わせるプロセスがある
③ 他職種と協働し、対話を続けられる関係性がある

すぐに答えの出るテーマではありませんが、現場から寄せられたリアルな声には、制度を育て、働きやすさを築いていくためのヒントが、確かにありました。

看護部にゆとりを生む「ナッジ」2)とは?

現場は時間も人員も足りないとの回答も多く寄せられました。
そこでもう一つのヒントとしてご紹介したいのが、行動経済学の「ナッジ」理論です。
私たちはマニュアルやガイドラインに則って「何をすべきか」を頭の中ではわかっていても、行動できないことが多い。忙しいとつい後回しにしたりして、うっかり忘れてしまうからです。
これらを簡単なルール・魅力的なデザイン・配置によって自然に行動できるようにする手法が「ナッジ」です。

医療現場の活用例としては、小さな面倒くささをよりシンプルにすることで行動できるようにする「摩擦削減系ナッジ」(ゴミ箱のゴミ8割溜まったら交換が守られないなか、ゴミ箱内に目立つ8割のラインを引いただけで改善した例など)や、「面倒だが誰かの役に立つならやりたい」と思わせることで行動させる「燃料補充系ナッジ」(歯科外来で医師に使用した針の廃棄ルールを守ってもらうために、片付けるとポスターの医師名にありがとうのシールを表示したところ劇的に改善した例など)があります。

職場の実情に合ったナッジを使うことで、小さなゆとりが生まれるかもしれません。

次回も、現場の声から生まれるヒントを届けていきます。

次回アンケート予告

次回は「看護現場のAI活用について」をテーマに、アンケートを実施する予定です。お楽しみに!

引用・参考文献

1) 日本看護協会「2024年 病院看護実態調査」結果:新卒看護職員の離職率は2年ぶりに10%台から8%台へ改善 約4割の病院で多様な働き方を導入/公益社団法人 日本看護協会 広報部 2025年3月31日(PDF).
https://www.nurse.or.jp/home/assets/20250331_nl1.pdf
2) 小池智子先生インタビュー:「ナッジ」を活用して職場にゆとりを生み出す.ナーシングビジネス2025年3月号.
https://medica.tameshiyo.me/9784840486941?page=5
看護師長が知っておきたい職場の「ゆとり」のつくりかた(ナーシングビジネス2025年3月号第1特集)

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看護師長が知っておきたい職場の「ゆとり」のつくりかた
第1特集には、病棟クラークへのタスクシフトで職場に「ゆとり」を生んだ実例や、すき間バイトを活用した例も。

メディカ出版 2025年3月発行
2,200 円(税込)
ISBN:  978-4-8404-8694-1

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